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精霊王物語  作者: 水野 精
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43 ルシフェルの生まれ変わり

 俺は二十才になった。高校へは行かず、奥多摩の閑静な林の中に住居兼事務所を建てて、悪霊や悪い妖怪などによる問題や事件を解決する、いわゆるゴーストバスターのような仕事をやっている。


 宮内庁特別神祇官という肩書きはそのままで、月々それ相応の給料も貰っているので、言うならば国家認定のゴーストバスター、現代版安倍晴明といったところだ。俺はゴーストバスターとは言わず、『妖媒師』を名乗っている。別に、霊や妖怪を退治するのが目的ではないからだ。むしろ、救われないで悪霊と化した霊を救って、ヌシ様の元へ帰すこと、人間にないがしろにされて怒っている妖怪や精霊と話をして、人間と仲直りさせることを目的にしている。つまり、人間には見えない世界の住人たちの立場に立って、人間たちとの間を取り持つ弁護士のようなものだ。

 もちろん、中にはもう救いようがないほど我を失った奴らもいるので、そう言う場合は仕方なく消滅させることで救ってやることもある。


 依頼は主に民間からだが、もちろん国家公務員として国からの依頼や外国からの依頼も受けている。インターネット上にホームページは開設したものの、最初のうちは、まったく仕事がなかった。だが、待っているばかりじゃしょうがないということで、都心を中心に積極的に悪霊治療をして回ったおかげで、口コミやSNSで評判になり、依頼が殺到するようになった。


 そして、そんな俺を助け支えてくれるのが、今俺を挟んで言い争っている二人の美しい使霊たちだ。一人はもちろん、サクヤだ。最初のうち、俺と彼女の間には永遠の別れも覚悟したほどの溝があったが、それを乗り越えたとき、俺たちは本当の信頼と愛情をお互いに持つことができた。


 もう一人のまだ幼い使霊の少女は、半年前、中国の峨眉山にある桃の神樹から生まれた精霊で、名前はメイリー。漢字の「美麗」を中国語読みしたものだ。

 その名の通り、この世のものとは思えないほどの美しさを持って生まれた。だが、よく見ると、瞳の色が違うだけで、サクヤとうり二つというほどよく似ている。それもそのはず、彼女はもともとサクヤの双子の妹で、闇の世界で大きな力を持つルシフェルという名の妖魔だった。俺たちは命をかけて戦い、そして彼女は敗れ、肉体は消滅した。

 ところが、死の直前、彼女を拘束するためにサクヤが使った魂交術によって、魂はサクヤの内部に残ったのであった。俺は光のヌシにお願いして、サクヤと同じ方法で彼女を光の世界に生まれ変わらせようと決意した。その結果、魂を半分彼女に与えた俺は命の危機に瀕したが、試みは成功し、彼女は光の世界の精霊として生まれ変わった。


 当初、サクヤが心配した、ルシフェルとしての記憶は確かに残っていたが、それはメイリーにとって、懐かしさも愛着もない、ただの忌まわしい記憶に過ぎなかったらしい。付け加えておくと、俺の魂を半分貰った彼女は俺の過去の記憶も持っているらしい(恥ずかしくて詳しくは聞いてないが┅┅)。生まれたときから日本語をしゃべり、難しい言葉や時には変な言葉も知っているのは、ルシフェルの記憶と俺の記憶の両方を持っているからだろう。彼女は俺たちにこう言った。


「たぶん、あの頃の私も何千年と変わらない闇の世界の殺し合いに飽き飽きしていたのでしょうね┅┅だからこそ、光の世界の美しさや安らかさを憎んだ┅┅うらやましくて仕方がなかった┅┅特に、光の世界に転生した姉様の存在を知ったとき、私は本当に衝撃を受けた┅┅

なぜ、姉様だけがそんな幸せを、と┅┅」

「そうか┅┅じゃあ、あの時の┅┅最後の涙も┅┅」

「ええ┅┅悔しくて┅┅悲しくて┅┅でも、心のどこかで、やっと終わるんだという安らぎも感じていたように思うの┅┅」

「ルシフェル┅┅」

 涙を流しながら自分を抱きしめる姉に、メイリーはからかうように言った。

「ふふ┅┅やめてよ、姉様、その名前はもうこの世から消えたの┅┅私はメイリー。修一お兄様の使霊┅┅これからは、何事も姉様には負けないから、覚悟しなさい」

「ええ、私も負けないように頑張るわ┅┅」


 メイリーは姉と微笑みを交わした後、その深い湖のような美しい青い瞳を俺に向けて言った。

「修一兄様┅┅どれだけ言葉を尽くしても、この世界に生まれ変わった喜びと感謝は言い表すことはできません┅┅これからは、兄様の使霊として精一杯働くことで、少しでもご恩に報いたいと思います。どうか、よろしくお願いします」

「うん┅┅頼りにさせてもらうよ┅┅だが、サクヤもそうだが、くれぐれも無茶だけはしないでくれ┅┅俺の命がいくつあっても足りないからな」

「「はいっ、承知しました」」

 双子の姉妹は顔を見合わせて笑った後、そっくりな声で返事をした。


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