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精霊王物語  作者: 水野 精
34/46

34 敵は義理の妹!?

〝サクヤ、あの妖魔はどんな術を使うんだ?〟

〝私が知るかぎりでは、男を虜にしたり、幻を見せたりする幻惑の術と様々な毒の術を使います。もちろん、生身の戦闘力もかなり高いです〟

〝そうか┅┅幻惑と毒┅┅なかなか厄介だな┅┅〟

〝┅┅修一様┅┅あの者と私、似ていると感じられませんでしたか?〟

 

 俺は思わずあっと出かかった声を飲み込んで、こちらに首を向けたサクヤを見つめた。


〝┅┅あの者の名前はルシフェル┅┅私と御霊分けした双子の妹です〟


 あまりの衝撃に、すぐに返事をすることもできなかった。


〝┅┅もともと、私たちはルシフェルと呼ばれ、光のヌシの使霊として闇の者たちと戦っておりました。しかし、あまりに強大な力を持ったために、いつしか不遜と強欲に心を支配されていきました。やがて光のヌシを侮るようになり、愚かにも自らが光の世界の支配者になろうと光のヌシに戦いを挑んだのです┅┅

結果は当然のごとく負けて、地の底の結界の中に永遠に閉じ込められることになりました。ところが、ルシフェルはこれを恨んで、ますます闇の心に支配されていきました。闇のヌシがこれを見逃すはずがありません。自ら結界を破ってルシフェルを救い出し、闇の世界に連れ去ったのです。そして、ルシフェルの強大な力を減らすために、魂を二つに分け、肉体を与えて自らの使霊にしたのです。それが妲己となった私であり、ルシフェルとして多くの光の者たちを殺してきたあの妹なのです┅┅〟

 サクヤは悲しげな感情と共に、心の声を俺に送ってきた。


〝┅┅そうだったのか┅┅じゃあ、あのルシフェルも君のことを┅┅〟

〝いいえ、あの者はまだ私が光の世界に転生したことを知りません┅┅ですが、いずれ私のことを思い出すでしょう┅┅その前にあの者を始末せねばなりません〟

〝辛くはないのか?妹なんだろう?〟

 

 サクヤは一瞬答えをためらったが、首をひねって俺の方をちらりと見てから、心の声で答えた。

〝いいえ┅┅妹といっても、もともとは自分自身です┅┅ミタケノウチノツカサ様に先ほどのいきさつを聞かされたときから、いずれこの日が来ることを覚悟しておりました。私は決着を付けねばならないのです、自分自身に┅┅〟


〝うん┅┅それを聞いて安心したよ。俺たちが側に付いている、きっちり決着をつけるぞ〟

 サクヤは俺の方を振り返ってしっかりと頷いた。

〝サクヤ、竜騎と沙江にもシーチェが敵だということを知らせておこう〟

〝はい〟

 サクヤは頷くと、さりげなくゴーサとイカシに交互に近づいていった。

 俺は、前を行くシーチェに気づかれないように、竜騎と沙江に目と口パクで、シーチェが〝敵〟だと知らせた。

 二人も心のどこかに疑念を抱いていたので、すぐにサインを理解し、しっかりと頷いた。


 その後、さらに二十分ほど飛んで、ようやく妖魔の少女は高度を下げ始めた。そこはもう天山山脈の麓だった。高い崖に挟まれた谷間のような場所で、なぜかその辺りだけうっすらと霧が覆っていた。地面には青々とした草が生え、ほのかな花の香りが漂っている。

その谷間の奧に大きな石造りの廟が建っていた。


「こちらへどうぞ」

 廟の前に降り立った少女は、その脇にある建物へ俺たちを連れて入っていった。

「ここはお客様や旅の巡礼者をお泊めする宿舎です。さあ、こちらへ┅┅」

「へえ、こんなへんぴな場所にお参りに来る人もいるんだなあ┅┅」

「竜騎ったら┅┅失礼よ┅┅ごめんなさい、シーチェさん┅┅」

「いいえ┅┅ふふ┅┅実はここには古い遺跡があって、結構観光客や調査をしに来る人がいるんですよ」

「すんません┅┅そういえば、この辺りもシルクロードの途中になるんか、なあ、修一?」

「えっ┅┅あ、ああ、そうかも┅┅俺、あんまり歴史とか得意じゃないから分からないよ」

 沙江は竜騎の無神経な発言にぴりぴりし、竜騎は俺に助けを求めるようにくっついてくる。

 

シーチェは廊下の奥の広い部屋に俺たちを案内した。長いテーブルが三つ平行に並べられ、それぞれの列に椅子が二十脚ほど置いてあった。

「ここが食堂です。どうぞお好きなところにお座り下さい。粗末な物しかお出しできませんが、すぐにお食事をお持ちいたします」

 シーチェはそう言うと、奧にあるドアから出て行った。そして、入れ替わるようにそのドアを開いて、お茶や菓子、果物などの盆を抱えた美しい衣装の女たちが出てきた。女たちはにこやかに微笑みながら、俺たちが座ったテーブルに白い陶器の器を並べていく。


「へへ┅┅訓練された兵隊だな、君┅┅」

 竜騎が、一人の女に片目をつぶってウインクしながら話しかけた。

 女はなおも微笑みを浮かべて、果物の入った容器を竜騎に差し出す。

「いやあ、さすがに毒入りのブドウはいらんわ」

 言葉と裏腹に喜んでブドウの房を受け取る竜騎に、俺たちは吹き出すのをようやく我慢していた。


「うん、やっぱ、こいつ等は日本語は分からねえようだな」

 竜騎はなおも女たちに愛想を振りまきながらそう言った。

「あんたねえ、もし、誰か日本語が分かる者がいたらどうするつもりよ」

 沙江が怒りながらも笑うのを我慢して頬をヒクヒクさせながら小さな声で言った。

「大丈夫だって┅┅あのシーチェって子の前でへたなこと言わなきゃいいんだよ」

「それが一番心配なのよっ!」


「沙江、落ち着け┅┅」

 シーチェがドアを開いてでてくるのを見て、俺は小さな声で沙江に注意する。

「せっかくなので、特産の葡萄酒とジュースをお持ちしました┅┅」

 明らかに毒か麻痺薬か、いずれにしても危険な物が入っていると分かる飲み物を持ってきた少女に、俺以外の全員がここまでかと覚悟を決めたに違いない。だが、今ここで戦いを起こすのは絶対的に不利だ。俺は何とか窮地を脱する方法を必死に考えた。


「あ、あの、シーチェさん┅┅」

「はい、何でしょう?」

 男たちにはブドウ酒を、沙江とサクヤにはブドウのジュースを注ぎ分けていた妖魔の少女は、にっこりと微笑みながら顔を向けた。確かに、よく見ればサクヤとうり二つと言って良いほど似ている。

「┅┅実は、ミタケノヌシ様から光帝様への伝言を預かっているんですが┅┅」

「まあ、そうですか┅┅では、お食事の後私が光帝様にお届けいたしましょう」

「いや、これは直接俺がお渡ししたいので、俺を光帝様の所へ連れて行って下さい」


 シーチェをこの場から引き離すためのとっさの思いつきだったが、すぐにサクヤの心の声が聞こえてきた。

〝修一様、ダメですっ!その女と二人きりになるなど、危険ですっ!〟

 竜騎と沙江も険しい表情で俺に目を向けていた。


「そうですか┅┅分かりました。お食事はされなくてもよろしいのですか?」

「ええ、大丈夫です。ここからどのくらいの距離ですか?」

「はい┅┅光帝様は峨眉山の上におられますから、休まずに飛んでも十時間、往復すれば丸一日ほどかかりますが┅┅」

「そうですか┅┅じゃあ、今から出発しましょう」

 シーチェは探るような目で俺を見つめていたが、すぐににっこりと微笑んで頷いた。

「分かりました。では、お弁当を持って参りましょう。すぐに準備しますのでしばらくお待ち下さい」

 シーチェはそう言うと、奧のドアの方へ去って行った。


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