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精霊王物語  作者: 水野 精
24/46

24 旅立ち前夜

 朝食後、俺たちは父が運転する車で御殿場へ向けて出発した。高速は使わず、十六号線を南下して二四六号線に入り、山の景色を楽しみながら適当に休憩をとって進んでいった。

そして、昼少し前には御殿場に着いた。

祖母に家では、すっかり祖母の孫たちのようになった竜騎と沙江が、畑や台所から走ってきて、驚いた顔で俺たちを出迎えた。


「まあ、まあ、母がすっかりお世話になっちゃって、すみません。修一の母です、初めまして。これから修一がお世話になります、よろしくお願いします」

「父親です。未熟者の息子ですが、どうかよろしくお願いします」

「ああ、いや、こちらこそお世話になってます。古座竜騎です、どうぞよろしく」

「初めまして、忌野沙江と申します。お婆様にはこちらに来てからずっと良くしていただいて、とても感謝しております。末永くよろしくお願いします」


 二人の仲間と実際に会って挨拶を交わした両親は、二人が俺とあまり年が変わらない少年少女であることに驚いたが、同時に頼もしさも感じたようだった。

「さあさ、中へ入れ┅┅ちょうど昼飯にしようと思ってたとこだ。沙江さんはほんとに料理が上手でさ┅┅しゃれた西洋料理を毎日作ってくれるんだよ」

「ま、まあ、そんな┅┅恥ずかしいですわ、お婆様┅┅」

「なんも恥ずかしがることなんてないよ┅┅沙江さんが修一の嫁になってくれたら、万々歳なんだけどねえ」

「ば、婆ちゃん、何言ってるんだよ」

 祖母の言葉でその場は和やかな笑いに包まれたが、沙江は真っ赤になって台所へ走り去り、サクヤは眉毛をつり上げて、俺をにらみつけていた。


「ねえ、修一┅┅」

 俺が心の声で必死にサクヤをなだめているところへ、母が近づいてきて声をひそめながら言った。

「┅┅竜騎さんはたぶん沖縄の人よね┅┅沙江さんはどこの人?ハーフなの?」

「いや、違うよ┅┅北海道から来たんだ。アイヌ出身らしいけど、純粋な日本人だよ」

「ああ、そうだったの┅┅色が白くて、彫りの深い顔立ちだったから、てっきり外国の人かハーフなんじゃないかって思って┅┅でも、美人よねえ┅┅挨拶もしっかりしていたし、育ちの良さがにじみ出ている感じで┅┅おまけにお料理も上手だなんて┅┅ふふ┅┅きっと、いいお嫁さんになるでしょうねえ┅┅┅」

「か、母さんまで┅┅ああ、もう、勘弁してくれよ」

 サクヤの激しい感情が流れ込んできて、思わず頭を抱えながら家の中に逃げ込む。

 俺の反応を見て、ようやく母はサクヤの存在に気がついたらしい。しまった、という顔でどこにいるかわからないサクヤに向かって言った。

「あの、サクヤちゃん┅┅も、もちろん、わたしもお父さんも、修一のお嫁さんにはサクヤちゃんがいいって、そう思っているのよ┅┅本当に┅┅」


 祖母の家は一段と賑やかさを増し、昼食が終わっても茶の間は祖母と両親、竜騎、沙江がお茶を飲みながら、それぞれの故郷の話などで大いに盛り上がっていた。

 サクヤとイサシ、ゴーサたちは、明日からのお役目について、詳しいことを聞くためにミタケノウチノツカサ翁のもとへ出かけていた。


「修一様、さっきから浮かない顔をなさっていますが┅┅何かご心配事でも?」

「えっ、あ、ああ、いや┅┅何でもないよ┅┅少し寝不足かも┅┅あは┅┅は┅┅」

 俺は努めて笑顔を作りながら沙江に答えた。俺の浮かない心の理由に心当たりがある母は、父の隣からすまなそうにこちらを見て手を小さく合わせていた。


 夕方墓参りを済ませて帰ってみると、サクヤたちも樹海から帰ってきていた。そこで俺たちは一緒にキャンプ場所へ行き、使霊たちから話を聞くことにした。


「┅┅なるほど┅┅つまり、二手に分かれてそれぞれのボスを倒した後、中国の西安で合流┅┅穴塞ぎに出発ってことだな?」

「はい┅┅それから、明日出発前に、外務省の人が飛行機のチケットとパスポートとビザを持ってくるそうです。出発はその後になります」

 イサシとゴーサラが作戦の概要を説明し、サクヤが細かい留意点を補足する形で使霊たちの説明は終わった。


「さて、他に何か打ち合わせしておくことはあるか?」

 竜騎の言葉に、俺が手を上げた。

「ええっと、全く初めてのことだから、分からないことだらけなんだけど┅┅まず一つは、俺たちはクエートとフランスに飛行機で行くのか?何で飛んでいかないんだ?それと、二つ目、連絡をとる方法はどうするんだ?三つ目、言葉が分からなくても戦えるんだよな?とりあえず、この三つに誰か答えてくれないか?」


 俺の質問に誰が答えるか顔を見合わせていたが、まず竜騎が口を開いた。

「ああ、まず一つ目の答えやけど、たぶん、不審な飛行物体はレーダーで捕らえられて、へたするとミサイルや戦闘機が飛んでくるからと違うかなあ┅┅二つ目は、やっぱ、使霊の三人に頑張ってもらうしかないやろう┅┅三つ目は┅┅ううん、俺もよう分からん┅┅」

「補足します┅┅一つ目と二つ目は竜騎の説明で合ってると思います。ただし、もともと使霊の姿はレーダーには捉えられないので、向こうに着いてからの移動は主に使霊を使う事になりますね。それと、三つ目ですが┅┅確かにそこは盲点でした┅┅妖魔が取り憑いた人を助けるとき、言葉が壁にならないといいのですが┅┅英語が通じるなら私がなんとかしますが、アラビア語はさすがに分かりません┅┅」

 俺たちは顔を見合わせて考え込んだ。

「んん┅┅ここで考え込んでもしょうがないで┅┅要は取り憑いた奴を引っ張り出して始末すればええんやろ、なんとかなるって┅┅」

「ああ、そうだな┅┅じゃあ、これで解散しよう。明日に備えてゆっくり休んでくれ」

 打ち合わせが終わり、俺たちは思い思いに明日の準備や休養に散っていった。


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