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精霊王物語  作者: 水野 精
19/46

19 闇の策謀

 そこは、中東クウェートのサウジアラビアとの国境に近い砂漠にある小さなオアシス。このオアシスを含む周囲三キロの砂漠は、フランスの大富豪ジョルジュ・ルクエールの私有地である。白い大理石の豪邸とその周囲に広がる緑の芝生には、常にスプリンクラーが虹を作って惜しげもなく水を振りまいている。そして豪邸の二階にある屋外プールには青く澄んだ水がたたえられ、遠く果てしない砂漠の色と見事なコントラストを見せていた。


 プールサイドのビーチパラソルの下で、果実入りのカクテルを味わっていたこの豪邸の主人のもとへ、召使いの一人が来客を知らせにきた。

「よし、通せ」

 召使いがかしこまって去って行くのとほとんど入れ違いに、大きな腹を揺すりながら、アラブ系の四十すぎくらいの男が、汗を拭き拭き歩いてきた。

「いやあ、暑い暑い┅┅おーい、俺にも冷えたビールを持って来い┅┅」

 男は去って行く召使いに叫ぶと、豪邸の主人の前にやって来た。

「よお、元気だったか、兄弟?病気で入院してたって聞いたが┅┅」

 豪邸の主人は立ち上がって、男とハグして肩を叩き合う。

「ああ、もう大丈夫だ┅┅のんびり寝てもいられないだろう┅┅我々の計画はこれからが正念場だからな」

「ああ、そういうことだ┅┅ロシアのニコライには話をつけておいたぞ」

「そうか、よくやってくれた┅┅あとは、CIAとイスラエルの犬どもへの対策だな┅┅ハッサン、全員に召集をかけてくれ。ここに三日後の午後三時だ……」

「わかった、ひひ……ワクワクしてきたぜ、初めて人を殺した時みたいにな」

 ハッサンと呼ばれた男がそう言って立ち上がった時、召使いが注文のビールを持ってきた。ハッサンはトレイに乗った銅製のジョッキをひったくるように取り上げると、一気に中身をのどに流し込んだ。


 その三日後、この豪邸の地下室に、様々な人種の胡散臭い男たちが六人集まっていた。

「よお、ニコライ、よく来てくれたな」

「……別に、あなたのために来たわけではない。こちらの利益になると判断したからだ」

「ああ、それでいいさ……後悔はさせないぜ」


 ニコライ・ソルニコフは、ロシアの銀行王と呼ばれる男で、特に中東の石油関連の利権に大きな影響力を持っていた。クウェートの王族の一人であるハッサンは、石油の採掘権を持ち、製油会社も経営している大富豪だった。他の四人は、中国の共産党中央委員で、大連に自分の石油会社を持つ張淋寧、コンゴの鉱山経営者で宝石王のオロノ・ムトンボ、そして軍服に身を包んだ、シリアの独裁者カダフィの孫であるアーマド・カダフィである。


「ようこそ、我が秘密基地へ……皆さんを心から歓迎しますぞ」

 この会合の主催者であるルクエールが、奥のドアから入ってきた。雑談をしていた面々は、話をやめてそれぞれの席に着く。

「さて、さっそく本題に入ろうと思うが、よろしいかな?」

 ルクレールが一番上手の席に着いてそう言うと、ロシアのニコライが手を挙げて言った。

「ちょっと質問があるのだが……」

「ああ、いいとも。何でも訊いてくれ、ニコライ君……」

「オペック内の国々同士で内紛を起こさせ、大国の軍事介入を誘う。力の弱った国を次々にこちらの陣営に引き込み、オペックに代わる新たな石油支配の組織を作る……まあ、筋書きは立派だが、本当に可能なのかね?下手をしないでも、軍や情報部を敵にすることになる可能性が大きいと思うが、軍事の専門家はカダフィ君だけ、というのは何とも心もとない気がしますね……」

 ルクレールは目を閉じ、黙ってニコライの話を聞いていたが、話が終わるとゆっくりと立ち上がった。


「君の心配はもっともだよ、ニコライ君……恐らく他の諸君もその点が一番気になるところだろう。今日集まってもらったのは、諸君のそうした不安を解消することが、一番の目的だったのだ……」

 彼はそう言うと、部屋の隅に置かれていたたくさんの酒やグラスが載ったキャスターのところへ行き、一本のワインの瓶をもってきた。

「私が所属する秘密組織には、現代の科学では解明できない不思議な魔術、まあ黒魔術とでも言っておこうか、そうした力を持つものが多くいる……」

「く、黒魔術?そんなものが本当にあるとでも……?」

「……では、そのほんの一端をお見せしよう。私はまだ修行中の段階でね、さほど大きな力は使えないが……」

 ルクレールはそう前置きすると、ワインの瓶をバーカウンターの上に置いて、少し離れた所から右手を挙げて手のひらを瓶に向けた。

男たちがじっと見つめる中で、突然黒い光のようなものがルクレールの手から放射されてワインの瓶に当たった。すると、三秒もかからずワインの瓶が爆発して、粉々に砕け散ったのである。


 男たちは声もなく、何か化け物を見るかのような目でルクレールを見た。

「これは、ほんの座興程度のものだ……組織の中には、数人で軍の一個師団を壊滅させられる者もいるし、ミサイルを遠くから撃ち落とせる者もいる……これは決して冗談ではないし、大げさに言っているわけでもない、私たちの後ろにはこんな頼もしい助っ人がいるということだ……ただし、彼らは決して表舞台には出てこない。あくまでも、陰で力を貸してくれるだけだ……なぜなら、この世界には、彼らに対抗するために何千年も前から作られているもう一つの秘密組織があるからだ……」

 ルクレールの形相は悪鬼のように変化し、全身を黒い光が包み始めていた。

「我々の本当の敵は軍ではない、CIAでもない……その忌まわしい奴ら、〝光の者〟たちなのだ!」

 


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