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 急いで服を整えて、声のする玄関の方へと二人で駆ける。


「ああ、やっぱり気づいてたのか――」


 廃城に訪ねてきていたのは――。



「ルージュ、あんたはこんなところで何をやってるんだい!?」



 なんと、城の玄関には、狐のような顔をした義母だった。


(あ……)


 彼女の声を聞くだけで、体の震えが止まらない。

 こき使われたり、せっかんを受けてきたことが、まざまざと脳裏をよぎる。


「あんたを追い出せるうえに、金まで入るって楽しみにしてたら、まさか逃げ出していたなんて――! あげく評判の悪魔伯のところに居ついて、売女のような真似をしていたなんて――! さあ、さっさと、戻ってきなさい」


 ヴィオレ伯に抱き寄せられた私が、彼の腕の中で震えていると――。

 

 彼がそっと、私の額に口づけてきた。

 彼の優しい心遣いに、ほんのりと勇気がわいてくる。

 私は震えながら、継母に声をかけた。


「お義母さん、私は帰りませんから……! この人は悪魔なんかじゃありません……! 帰ってください」


 今まで彼女に口答えなんかしたことがなかった。

 だけど、優しくて、自分に居場所を提供してきてくれたヴィオレのことを悪く言われたくなかったのだ。


「なんですって――! このごくつぶしが――!」


 まなじりを上げながら、継母は叫ぶ。


「ルージュにしては頑張ったんじゃないの? でも、あんまり、ああいう小物のいうことは聞かないで良いよ。どうせ、金さえ渡せば出ていくんだからさ――」


「ヴィオレ様……」


「それで、いくらほしいの?」


「え――?」


 ヴィオレが声をかけると、文句を言っていた継母がころっと表情を変えた。


「おやおや、話が早いですね。生娘であるルージュを売るために、銀貨を百枚ほどいただく予定だったんです。さすがにそれよりも少ないなんてことはないですよね」


「金なんていくらでもやるよ――ほら、だから邪魔しないでくれる?」


 ヴィオレが手近にあった布袋を手に取ると、継母に向かって投げつける。

 袋のあまりの重量に、継母は取り落としかけた。


「これは……金貨が……百、いや、百じゃ聞かない――」


「金貨、千枚だよ。ほら、さっさと帰ってくれる?」


 継母の声が上ずる。


「なんで、そんなにのろまでぐずで、どんくさい、その小娘に、こんな大金を、伯爵は支払うのですか?」


 ヴィオレは、見るものの心を震わせる笑顔で、彼女に告げる。



「ねえ、おばさん、ルージュが本当に、ただのどんくさいやつだって思ってるの? 本当、無知なやつって、見る目もないよね――」


 だが、発言は明らかに冷酷無比なものだった。


 けれども、すぐに彼は笑顔を取り戻す。



「――決まってるでしょ? もちろん、ルージュが優秀な弟子だからっていうのもあるけど――」



 彼は続けた。



「俺の大事な花嫁だからだよ――」



 私は目を真ん丸に開いた。


(ただの助手や、使用人じゃなくて――ヴィオレ様――)


 私の心が、歓喜で震える。


「さあ、もう二度とここには来ないでね」


 ヴィオレがにっこりと微笑むと、継母は引きつった笑みを浮かべながら姿を消した。


 喜んだのも束の間、はっとなって、私はヴィオレに声をかける。


「ヴィオレ様、あんな大金を――! それにお母さんの性格だと、また使い込んだらせびりに来ます……!」


「ああ、ルージュはそんなこと心配してるの? 大丈夫だから、気にしないで……ね」


 彼にそう言われると、よく分からないが大丈夫な気がしてくる。


「さあ、邪魔者もいなくなったし、さあ部屋に戻ろうか――?」




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