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住み込みで働きだして、およそひと月が経った。
彼の研究の手伝いを続けている間に、だんだん彼との仲が深まってきていたように感じていた。
(なんだろう……? 空気のような……? なんだか一緒にいると落ち着く……)
ヴィオレのことを考えると、胸が温かくて仕方がない。
彼の方も、自分のことを労わってくれているような気がしていた。
そんなある時、廃城から少し降りた山の中腹へと、ヴィオレ伯と私は来ていた。
「えっと、この花は確か、根に毒があって……」
「ふぅん、覚えもいいじゃん……なんで、そんな、村では馬鹿みたいな扱いを受けてたんだろうね……こんなに色々覚えらえるなら、なんでも出来るはずなのに、見る目のない家族や村人だったんだろうね」
「いえ……その、どんくさいですから……きゃっ……!」
すると、俯く私の顎を、突然ヴィオレ伯が掴んだ。
そうして――。
「……!」
何か柔らかなものが、私の唇を塞いできていた。
息が出来なかったが、しばらくすると離れていく。
(え? 今のは、まさか――)
「……まあ、確かに、どんくさいかもね」
どうも彼が口付けてきたのだと、気づくのに少しだけ時間がかかった。
「おいしかったよ、ごちそうさん。次からは騙されないようにね。さあ、屋敷に戻ろうか」
その時、がさりと何か音がした。
さっと何かの陰が見える。
(犬か何かかしら――?)
ヴィオレ伯も、音が鳴った方をちらりと見ていた。
「ふぅん、気づかれちゃったかな?」
「え――?」
「いや、なんでもないよ。行こうか――?」
そうして薬草摘みは終わったけれど、私の心臓のドキドキは寝付くまでしばらく終わることはなかったのだった。