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 身体で支払えと言われて、いったい何をさせられるのかと緊張していた私だが――。


「ほら、そこの文書、適当に年代別に並べといてくれる?」


 気だるげな様子で、ヴィオレが私に向かって話しかけてきた。


「は、はい……」


 なんと、ヴィオレ伯の研究の助手として、雇われることになったのだ。

 しかも、廃城に住み込みで。


(行く当てがないから助かった……)


 考え事をしていると――。


「きゃっ……!」


 近くにあった書類を手に持った私だったが、山積みになっていた書物に躓いて転んでしまった。もちろん紙があたりに散らばっていく。


「あいたたた……」


 転んだ時に鼻をどうやらこすったようだ。


「ただ働きも気が引けるだろうし、文字が読めるからって、魔術研究の手伝いでもさせようと思ったけど――」


 ためいきをつきながら、ヴィオレ伯は呟く。


「雇ったのは失敗だったかな? やれやれ」


 彼の物言いに、胸がずきんと痛んだ。

 狐のような顔をした継母から、「役立たずのごくつぶし」とよく言われていたのだ。

 そのことを思い出し、気づけば勝手に瞳が潤む。

 こちらに気づいたヴィオレ伯が、ぎょっと目を見開いた。


「わっ――なんで泣いてるんだよ?」


「え、えっと……」


 どんくさいのを気にしていた私は、いつのまにかぽろぽろと涙を流していた。


「ああ、俺が悪かったよ。言い方がきつかった。俺としては悪気はないんだけど、口調がきついって言われて、よく助手にしたやつが逃げるんだよね……」


 そう言うと、彼は「はあ」とため息をついた。


「ほら、ルージュ。機嫌を直してくれない? 飴玉やるから」


 そうして彼は手近にあった小瓶をとると、私の掌の上にころんと何粒かの飴玉を載せる。

 カラフルな可愛らしい包みに入った飴を見ると、少しだけ心が安らいだ。


「ルージュは……俺のきつい口調にもさ、めげずについてきてくれるし……重宝してるんだよ」


 ぼそりとヴィオレがそんなことを呟いた。


(聞き間違い――?)


「ああ、もう良いよ。仕事の続きをしてくれる――?」


 そうして彼はまた机に向き合った。


(重宝している……)


 そんなことを言われたのは、生まれてはじめてだった。


(ヴィオレ伯は、言い方はきつい――というか生意気な印象があるけれど、すごく優しい男性だわ……どうして悪魔伯なんて言われているのか、分からないぐらい親切な人……)


 その日は、なんだか胸がぽかぽかしてきて、嬉しくて仕方がなかったのだった。




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