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5 始まりの合図


「ふぅ、さすがに疲れたな」


 フィールドに出てから2人のスライム討伐数は20を超えていた。


 いくら楽しくて仕方なくても、2時間以上も走ったりしていれば疲れを感じるのも当然か。


 汗を拭う2人の体に当たる爽やかな風が、運動行為による心地良さを倍増してくれた。 

 

「ところでさ。フィールドだと生命力がゼロになると転送されるとか言ってたよね?」


「おお、そうだな」


 Tシャツの袖で汗を拭ったサトシがツトムに問う。


「……ゼロかどうかって、どうやって確認するの?」


「…………」


 生命力がゼロになれば、強制的に待機所へ転送させられてしまう。死亡する代わりにそうなると説明されたが、肝心の生命力確認方法が分からない。


「確認方法あるのか……?」


 ツトムは眉間に皺を寄せながら疑いの表情を浮かべて、そもそも確認する為の方法が存在するのか根本的な問題を口にした。


 逆に問われたサトシは悩むように腕を組む。うーん、と声を漏らしながら悩んだ末に周囲をキョロキョロと観察し始めると……。


「あ、見て! あの人なんか出してる!」


 サトシが見つけた冒険者は冒険者の腕輪から半透明な『ウインドウ』のようなモノを眺めていた。


 所謂、ステータス画面みたいなモノだろうか。


 2人は不思議な半透明の映像が投影されている事に最早疑問すら感じない。2人の頭にはどうやったら表示するんだ、と方法を見つける事で頭がいっぱいのようだ。


「叫ぶんじゃね!?」


 ツトムが最初に出した提案は異世界転生系小説に登場する定番の方法。


「ステータスオープン!」


 サトシは恥ずかし気もなく叫んだ。しかし、ステータス画面は出ない。


「わかった! 発音じゃね!? 魔法も魔法名を叫んだら発動するじゃん!」


 きっと音声認識の線は合っているはずだ、とツトムは付け加えた。魔法を発動させる際、魔法名を口にしたからだ。


 ツトムは確固たる根拠をサトシに言うと、サトシも「確かに」と納得した。


「スゥテェィタァス!」


 今度はちょっと巻き舌気味に。サトシは彼の持つ精一杯の英語力を絞り出して叫ぶ。


「…………」


「……出ないじゃん」


 憐れ、サトシの英語力は足りなかったのか。


 腕を組みながら深く悩む2人であったが、


「あの」


 2人の背中へ声が掛けられた。


 サトシとツトムは揃って振り向くと、背後には白いローブを着て水色の剣を腰に差した背の低い少年が立っていた。


「ステータス画面を出したいんですか?」


 声を掛けてくれた少年は、自ら声を掛けたというのに少し遠慮しがちな声色で2人に問う。


「あ、そうなんですよ。方法がわからなくて」


 サトシがそう返すと、少年は自分の腕に装着した冒険者の腕輪を見せた。


 彼の腕輪はサトシ達と色が違う。金色の腕輪だった。


「冒険者の腕輪をこうして、トントン、と2回叩くんです」


 少年は人差し指と中指の2本を使って腕輪を軽く2回叩く。すると、少年の腕輪から半透明のウインドウが飛び出した。


 彼に倣って2人も試すと、確かにステータス画面らしきウインドウが飛び出すではないか。


「出た!」


「まじでステータス画面が出たぞ!? 音声認識じゃねえのか!?」


 飛び出したウインドウを見ると、個人名・ジョブ名・生命力、下には現在パーティを組んでいる人数と組んでいるツトムの名が表示されていた。


 サトシの名前、戦士である事、そして生命力の欄には 41/100 とあった。


 ツトムもほとんど同じであるが、彼は攻撃を受けていない為か生命力の欄に 50/50 と記載されている。


 代わりにサトシのステータスには存在しない魔力の部分があって数値は 30/100 になっていた。


「冒険者の腕輪を渡された時に教えてくれませんでしたか?」


 少年はステータス画面の出し方を知らない2人に怪訝な表情を向ける。


「いや、パーティを組むから腕輪を叩き合えとしか……」


 その時の状況を伝えると、少年は何か思い当たる節があったのか何かに気付いたような表情を浮かべた。


「もしかして、担当してくれた人は金髪で長い髪を後ろで結んだエルフの男性じゃありませんか?」


「あー! そうそう!」


 少年は2人を担当した男性エルフの容姿を言い当てた。ツトムがテンション高めに「そうだ」と当たっている事を告げると、少年は小さくため息を零す。


「ああ、あの人は凄い演出が凝っているんですよね。リアクションも大きくて……。でも、肝心な事を忘れがちというか……」


 悪い人じゃないのだが、ちょっとヌけた異種族。そんな人らしい。


「もしかして、アイテムも貰い忘れていますか?」


 少年はサトシとツトムが防具と武器しか持っていないのを見て察したようである。


 2人は顔を見合わせてから苦笑いを浮かべて「貰ってないね」と返答した。


「じゃあ、これ差し上げますよ。お兄さんの生命力が減っていますので、飲んだ方が良いですよ」


 少年は腰にあったやや大きめのウエストポーチからコルク栓で封した試験管を取り出す。


「これは?」


「赤ポーションです。飲めば生命力が回復しますよ」


「ええ? あのリンゴ味の?」


 中央広場で飲んだポーション瓶はフラスコタイプだったが、携帯しやすいように試験管サイズもあるようだ。


 有難く受け取ったサトシはコルクを抜いてポーションを飲んだ。

 

 味は広場で飲んだ時と同じくすっきりとしたリンゴ味。


「なんか疲れが取れた? んん?」


 広場で飲んだ時と違って飲んだ瞬間、疲れが抜けるような感覚があって小さく声を漏らしながら首を傾げてしまった。


「ステータスを見て下さい。回復しているでしょう?」


「おお! 本当だ!」


 サトシの生命力はMAXの100に戻っていた。少年はフィールドでポーションを飲むと生命力や魔力が回復すると教えてくれる。


「そちらのお兄さんも青ポーションを飲んだ方が良いですよ。魔力、減ってますし」


「ありがとう。……なんか、頭がスッとする」


 やはりこちらもブルーハワイソーダ味。しかし、赤ポーション同様に疲れた頭がリセットされるような、独特な爽やかさを感じる。


「親切にありがとうね。ああ、お代を払うから――」


 サトシが少年にポーション代を払おうとポケットに入れていた財布を取り出そうとするが、少年は笑いながら手で制した。


「いえ、結構ですよ。魔獣を数匹倒せば交換できるアイテムですので」


 仮登録者であるサトシ達とは違い、個性を出すような装備品を身に着けている事から本登録した冒険者なのだろう。


 しかも、可愛らしく笑った少年はポーションを購入する代金を稼ぐ事など余裕といった口ぶり。その事から少年は冒険者活動に慣れたベテランだと2人は察する。


 社会人の2人が少年に飲み物を恵んでもらうなど情けないが、2人は大人しく先輩冒険者に甘える事にした。


「本当にありがとう。いつかお礼をするから」


「あはは。じゃあ、あのエルフの人の事、嫌いにならないであげて下さい。あの人、結構人気のキャストさんなんで」

 

 ちょっとヌけているが、まさに異世界の住人といった感じ。アリウェルランドへ通う冒険者達からは愛されキャラだそうで。


「そっか。わかったよ。色々ありが――」


 サトシが改めて礼を告げた瞬間、アリウェルランドの方向から『ゴーン、ゴーン』と大きな鐘の音が鳴った。


「あ、緊急イベントですね」


「「 緊急イベント? 」」


 少年の言葉に2人は揃って聞き返した。


「はい。たまに突発でイベントが発生するんです。大体は街に大量の魔獣が押し寄せるって設定で、魔獣の群れから街を防衛するイベント戦ですね」


 少年はフィールドの奥を指差して、奥から魔獣が大量に西門へ向かって来ると言った。


 緊急イベントに対して冒険者の参加は任意だが、参加して防衛成功すると全員にボーナスポイントが付与されると教えてくれた。


 仮登録者も参加できて、参加すると終了時の体験参加賞が少し豪華になるとのこと。


「参加する人は門の前に集合します。参加しない人はフィールドから出るって感じですね」


「へえ。楽しそうだな」


 迫り来る大量の魔獣から街を防衛する。異世界を題材にした物語に登場する定番な出来事だろう。


 ストーリーの山場になるような出来事を実際に体験して、街を守る英雄の一員になれるといったところか。


「それじゃあ、僕は知り合いと参加するので」


「ああ。色々ありがとう。本当に助かったよ」


「ありがとうな」


 イベント戦に参加すると言った少年にサトシとツトムは礼を告げて、少年の背中を見送った。


「俺らも参加しようか」


「ああ、面白そうだしな!」


 すっかり冒険者活動に魅了された2人はイベント戦へのやる気を漲らせた。


 続々と門へ引き返していく冒険者に混じって、2人も門の前に移動するのであった。  


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