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15 レイド戦


 スキル取得と買い物を済ませた4人は、スキルと購入したアイテムの試運転も兼ねて午前中にクエストをいくつか消化した。


 狙った魔獣は前回戦ったキラープラントである。


 やはりパーティー戦で戦うにはやはり丁度良い相手で、新しい要素を引っ提げた4人は『キラープラントの討伐:20匹』とあったクエストを無事に完了させた。


 午前中にクエストを終わらせ、クエスト完了報告で2000ポイントを付与される。


 昼食を摂ったあと、サトシはタンク役の安定感を増す為に鉄の盾を購入。


 その後、腹ごなしついでに盾の有用性を確かめるべく再びキラープラントに挑む事にした。


「いくぞ!」


 前衛であり、タンク役も兼任するサトシは片手に剣を、もう片方の手に盾を持ってキラープラントへ正面から突っ込んだ。


 相手の警戒範囲内に入ると4本の蔓がサトシに迫る。


 しなる蔓を目視すると、サトシは盾を前に出して蔓を受け止めた。


「おっと、うっ」


 ダン、ダン、ダン、と構えた盾に何度も打ち付けられる蔓。衝撃が腕に伝わるものの、それは盾で防いでいるという証拠となる。


 といっても、全てが防げるわけじゃない。盾を持ったばかりでまだ未熟であるサトシは脇腹に何度か攻撃を受けた。


 ムチのように連打してくる蔓を盾で受け止めつつ、剣で払って抵抗するがやはり1人では決め手に欠ける。


「ヒール!」


 ただ、彼が死亡する事はない。後ろから魔法を唱える声が響き、サトシの体が緑色の光で包まれる。


 新しい赤いメガネをかけたまひろがヒールを唱えてサトシの生命力を満タンまで回復させたのだ。


「そこよっ」


 彼が蔓を防ぐ間、警戒範囲外の側面からボウガンを構える咲奈がトリガーを引く。


 1発装填されたボウガンのボルトが勢いよく飛び出し、キラープラントの体に刺さった。


「――――!」


 ボルトが刺さるとまるで苦痛の声を上げて悶えるかの如く、本体から生える蔓がウネウネと動く。


 咲奈はボルトを矢筒から取り出して再装填し、もう一発撃ち込むが相手はまだ死なない。


「ウインドカッター!」


 その間、サトシの斜め左方向に位置取ったツトムが、新しく取得した風の魔法『ウインドカッター』を放つ。


 スティックの先から射出された風は薄い緑色の半円型の刃を作り、蔓に向かって飛んでいく。


 ツトムはこの魔法を取得してからファイアーボールよりも多用していた。


 ただ単に新しいから、というわけじゃない。炎の玉よりも高速で相手へ迫る風の刃はヒットするまでの時間が速い。


 並の人間が持つ動体視力では追えぬ程の速さで迫る風の刃は蔓を3本切って霧散した。


 すぐに結果が確認できる事は利点である。外せば次に備えられるし、すぐに相手の一部を破壊できればその瞬間から僅かにでも仲間に余裕が生まれるからだ。


「もう一発頼む!」


 蔓の数が減った事で相手は見るからに弱体化した。盾を連打する頻度が減り、ダメージを負ったからか蔓の攻撃に勢いが無い。


 サトシが難なく防御している間に咲奈とツトム、火力組が攻撃を繰り返すとキラープラントは光の粒子に変わって消えた。


 総合的に見れば新スキル、新装備を得た4人は難なくキラープラントを撃破できたと言えるだろう。


 続けて目視できる距離にいた別のキラープラントまでサトシが走り出し、連戦となるがこちらも同じように撃破する。


 戦闘を終えた4人は門の方へ少し移動すると休憩しながら戦闘の感想を言い合い始めた。


「やっぱ盾を買って正解だったかな。生命力増加も優先的に育てた方が良さそうだ」 


 サトシは盾での防御面強化、生命力が増えた事で何度か攻撃を受けても簡単には死亡せず戦いに余裕が生まれた。 


「やっぱり生命力がどれだけ減ったか見えるのは便利ですね」


 加えて、タンク役のサトシを支えるまひろも彼の生命力減少具合が可視化された事でヒールを撃つタイミングを見極められる。


 これによって無駄に魔力を使わなくても良くなったし、生命力が減った様子――オーラ無し、オレンジ、赤と生命力の減少具合がオーラ表示される――が見える事で周囲に目を向ける余裕も生まれた。


「ツトムと樋口さんの攻撃も良いね。小刻みに撃てて瞬発力があるし」


 ツトムは魔法使い故に、咲奈はシーフというジョブの特性を生かして遠距離からの攻撃を放てる。


 魔法使いの放つ魔法は高火力という点、シーフの敵に合わせて遠・近距離の攻撃手段を選べる柔軟性の高さはパーティーにとって大きな利点だ。


 2人が遠距離攻撃に専念する事で、まだヒーラーに慣れきっていないまひろが回復する者を1人に固定できる点も利点として挙げられるだろう。


「もうちょい強い魔獣も相手できそうじゃね?」


「確かに~。今のあたし達なら余裕なんじゃね~?」 


 わはは、と強気に笑い合うツトムと咲奈。


「あー、確かにね」


 だが、確かにもうキラープラントでは物足りなくなってきたとサトシも思っているようだ。


 彼は背負っていたリュックから入門書を取り出して次の相手となる魔獣を探すべくページを捲った。


「えーっと、次は……」


 サトシが魔獣を探していると――カン、カン、カン、カンと忙しない金属を叩く音がした。


 4人は音に反応して、音のする方向である西門の方へ顔を向けた。


「あれ? なんでしょう?」


 門の上にある通路には兵士らしき男が立っており、手に持っていた鐘を棒で叩いている姿が小さく見える。


「緊急イベント?」


「でも、前は時計塔の鐘が鳴る音じゃなかったか?」


 サトシは音の正体が緊急イベントの合図か、と推測するがツトムの言う通り前回遭遇したイベントとは少々様子が違う。


 今回の音はどこか焦っているような雰囲気を纏う。


「行ってみよう」


 緊急イベントであれば参加者は西門前に集合するはずだ。


 4人は概要だけでも聞いてみよう、と西門へ向かった。



-----



「緊急イベントが30分後に開始されますッ!! 参加する方は西門前で待機して下さいッ!」


 4人が西門前に到達すると、門の上にいた兵士が大声で叫びながらイベント戦が開催される事を告げていた。


 周囲にいた他の冒険者達も「やっぱりか」「鐘の音が違ったのは何故だ?」「あの兵士、随分と焦ってないか?」と感想を零す。


 サトシ達が内心で抱く感想も似たようなものだろう。


 4人は顔を見合わせて、


「参加する? イベント戦って参加するとポイント貰えたわよね?」


「うん、勝利すると報酬ボーナスでいっぱい貰えるって話だね」


「参加するっしょ。ボーナスポイントで新しい魔法覚えたい」


「私も補助魔法とか揃えたいです」


 イベントに参加し、勝利する事で貰えるポイントの使い道まで既に口にしてる事から参加する気は満々のようだ。


 イベント戦の良いところは、まだ弱い初心者冒険者でも参加できる事だ。そして、上位者が活躍して勝利を収めれば初心者でも多くのポイントが貰える事だろう。


 上位者に頼って参加しても何もしない……。所謂、ゲームで言うところの寄生プレイは推奨されないが、初心者でも魔獣の1匹や2匹を相手にすればそれだけ参加者全体の負担が減る。


 イベント戦は冒険者全体の協力が主体である。1人1人がベストを尽くせば勝利できる。仲間と共に勝ち抜こう、そういった楽しみ方をするものである。


 故にまだ弱いから装備が整っていないからと参加者から邪険にはされる事はないし、イベントの一員となってお祭り騒ぎを体験して楽しむのが推奨されている。


 ――が、そんな冒険者達とは対照的にフィールドへ続々と現れるアリウェル騎士団の騎士や兵士達の顔が険しい。


 騎士団を率いる騎士団長、カイゼル髭を生やした巨漢であるガイスト・アームストロングの顔もどこか焦りが混じっている表情が浮かんでいるように見えた。


「参加する冒険者は準備しながら聞いて頂きたい! 今回のイベント戦は()()()()であるッ!」


 前回のように西門へ現れたポーション売りの女性が引く露店に群がる冒険者達もガイストの言葉を聞いて動きを止めた。


「レイド戦?」


「初めてだな、そんなの。いつもの群れを討伐するタイプじゃないのか?」


 初めて聞くイベント戦の種類にベテラン冒険者達からも疑問の声が上がった。


「レイド戦は巨大な魔獣に対し、全員で戦う事となるッ! さらに、いつもは死亡となって転送されれば復帰は不可能であるが、レイド戦は魔獣を討伐するか時間切れになるまで何度でも戦線に復帰できるッ!」


 そう告げたガイストは復帰地点はいつも通りで、内側にいる門番兵に声を掛ければ門の脇にある小さな扉からフィールドに出れる事を付け加えた。


 ガイストの仕様発表を聞き、冒険者達からは「おおー」と声が漏れた。


 この声は果たしてどちらを意味するのか。 


 何度も戦線に復帰できる事への喜びか。それとも何度も戦線に復帰せねばクリアできぬほどの難易度なのかと察した声か。


「討伐対象は生半可な攻撃では傷も付かぬ程の強敵であるッ! よって、討伐にはこちらで用意した専用の魔導具を使用してもらう!」


 そう宣言したガイストの声が響いた後に、西門の内側からフィールドへ現れたのは筒のような物体を乗せた荷車だった。


 荷車に乗せられた筒を騎士や兵士達がフィールドに並べると、ガイストがそれを紹介し始める。


「これは巨獣討伐用の魔導兵器。撃獣槍である。敵の真下、指定された場所に近づくと発射機構が解除される仕組みだ!」


 敵の心臓部が指定攻撃地点となっていて、その場所に近づくと音が鳴って発射ボタンが押せるようになるようで。


「恐らくは1撃では倒せぬ! 何度も撃ち込まなければならんだろう!」


 冒険者達はこれを担ぎ、敵の真下まで潜り込み、ボタンを押して心臓部を射出される魔法の槍で破壊する。


 ただ、1撃で破壊するのは不可能だと宣言された。


 勿論、そのプロセスを完了させる為の魔獣侵攻を食い止める手段も用意されているそうだ。


 とにかく、魔獣の心臓を魔導具で穿つ事。これが勝利条件であると伝えられた。


「敗北条件は1つ。巨獣の西門突破だ」


 西門を破壊され、内部まで侵攻された時点でイベントは終了。

 

 よって、今回は西門付近にいる不参加者達は別のエリアへ誘導される事となった。


 既に内側では不参加を決めた冒険者、傍で見学しようとしていた来園者達は南北のエリアへ退避するよう誘導が始まっているようで兵士達の叫び声がフィールドまで微かに聞こえて来る。


「閉門ッ!」


 開始の時間が迫り、遂に西門は閉鎖された。巨大な門がぴったりと閉まると内側からロックされるような音が響く。


 参加者が西門に待機する中、整列した騎士と兵士が敬礼するとガイストが冒険者達へ告げる。


「諸君ッ! 今回は……いつも以上に激戦となるだろう」


 説明を終えたガイストの顔は未だ険しい。死地へ向かう軍人が浮かべるような、胸に決意を秘めた表情であった。


「だが、君達であればきっとやり遂げられる。私はそう信じているぞ」


 拳を握り、冒険者達を見回すガイスト。


 冒険者達とガイストが顔を合せ、真剣な表情を浮かべている中で――フィールドの奥に大量の光の粒子が落ちる。


 キラキラと光る粒子はどんどんと巨大な魔獣の形を形成していき、それは山のように巨大な亀の姿となった。


「お、おいおい……」


「マ、マジであれを倒すのか?」


 冒険者達が動揺するのも当然か。距離が十分離れていても……。いや、距離が離れているからこそ、魔獣の巨大さが際立つ。


 ガイストが討伐対象を『巨獣』と呼んでいた理由がよく分かる。確かにあれは巨獣であると、誰もが納得した。


 同時にあの巨獣に近づき、下に潜り込んで魔導具を起動する。


「移動が遅そうだし余裕じゃないか?」


 容易であると思う者。


「いや、絶対何かある。あの足に蹴られただけでも死亡するんじゃないか?」


 そうではないと思う者。


 様々な憶測や推測が飛び交うが、果たして冒険者達は成功させる事ができるのか。


「あれ、魔法が効くのか?」


「剣は絶対に振るだけ無駄だよな……」


「ど、どうするの!?」


「か、回復で攻撃を凌げるんでしょうか……!?」


 その中にいるサトシ達も巨獣を見上げては口を半開きにして驚きを露わにしていた。


「ガアアアアッ!」


 彼等の動揺なんぞ気にせず、遂に巨獣が大きな口を開けて雄叫びを上げる。


 すると、ドカンと地面を振動させながら大きな一歩をアリウェルランド西門へ向けて歩き出した。


「さぁ! 来るぞッ!」


 巨獣の歩みを見たガイストは大剣を抜く。抜いた大剣の先端を巨獣へ向けて、冒険者を鼓舞するように叫んだ。


「冒険者達よッ! 冒険者を越えて英雄となれッ!」


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