寝付けない夜だった
今回もなかなかに面白い夢を見れたので、それをアレンジしました。まあまあ雰囲気のあるホラーに仕上がっていると思いますので、どうぞご一読ください。
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やけに寝付けぬ夜だ。風の音も雨の音も、猫の喧騒すらも聞こえないというのに。胸が騒ぎ、意識を留めようとする。これが恋の病か何かであればまだ微笑ましかったのだが、生憎と嫌に肌が粟立っている。想い人が原因でこうなることなどあり得ないだろう。
どうにか眠る方法はないものかと思考を巡らせるが、考えれば考えるほどに頭が冴えてくる。
「しょうがないな、ちょっともらうか。」
観念してベッドから降り、冷蔵庫へと向かう。中には父が買いためている酒があった。俺はそこから一際度数が高いものを選び、勢いをつけて飲んだ。アルコールは苦手なのだが、それ故にこういう時は“効く”。すぐに体がふらつきだし、俺は風呂上がりさながらに火照りながらベッドに戻った。
未だに胸騒ぎは治まっていない。しかし酒の力でだんだんと意識は薄れていく。沼に沈んでいくような感覚の中、俺はようやく眠りに就いた。
気がつくと田舎道にいた。普段外出するような格好で。だがスマホや財布は持っていないようだ。あまりにも唐突だったが、とにかく俺は田舎道に立っていた。絵に描いたような、綺麗でのどかな雰囲気のある場所だった。道を挟んでいる田んぼには黄金色の穂が実り、素人が見ても良い育ち方をしていると分かる。
「……で、ここどこだ?」
景色に見とれつつ、当然の疑問を浮かべる。なにせやっと眠れたと思ったらこれだ。意識も妙にハッキリしている。
「夢、でいいのか?いや、でもな……」
自問自答しながら辺りを見渡す。自分で言うのもなんだが、あんな雑な眠り方をしてこれほど綺麗な夢を見られるはずが無いと感じた。
「とりあえず今はあそこに行ってみよう。」
かなり遠くに家屋が並んでいるのが見える。この距離からは明確に判断できないが、おそらく木造建築の家だ。落ち着いた色合いでここらの趣に馴染んでいる。俺は自分の置かれた状況が全く理解できていなかったが、なぜかあそこに行けばどうにかなるような気がした。と言うより、それ以外に何も手がかりがなかった。
近くまで来るとなにやら活気づいた声が聞こえてきた。その声になおさら足が吸い寄せられる。
なかなかに立派な農村だった。遠くからだと家が数件あるくらいに見えたが、実際にはもっと多い。人の数も予想以上だ。見える範囲で数十人、村全体なら百人は超えるのではないか。そして誰もが笑顔を浮かべ、何かの準備をしている。この活気から察するに、祭りでもあるのだろう。
「さて、どうしたもんか。」
適当な人に声をかけてみようと思っていたのだが、どう話しかければいいかは考えていなかった。いきなり「ここはどこですか」なんて言おうものなら村人に避けられる恐れもある。それに万が一警察にでも連絡されたら面倒だ。今の俺は身分を証明できる物を何一つ持っていないのだから。
「お兄さん、何か悩みでもあるのかね。」
「へっ?いや、悩みっていうか……。」
突然老人に話しかけられて変な声を出してしまったが、こちらから話しかける手間が省けた。
「あんた、よそから来た人だろう。格好を見れば分かる。」
「え、ええまあ。」
確かに俺の服装は浮いていた。周りの人はなんというか昔の服装といった感じだ。70~80年代、いやもっと昔か。何にせよマズイ流れになった。村から追い出されては自分が今どこにいるのか、どうすれば家に帰れるのかわからなくなってしまう。
「どんな悩みがあって来たか知らんが、もう大丈夫だ。きっとはいろう様が救ってくださるよ。今日ここを訪れるとは、あんたも運がいいね。」
そう言って老人は村の奥へ消えていった。