じろー いっちゃい
説明回!
僕は一才になった。
前世も換算すれば十八才か?
なんでも僕の周りが言うことには……僕は死んでから妹に取りつき、背後霊として妹を見守り続けたそうだ。伝聞なのはその時の記憶が無いからで、僕が覚えているのは死の間際、その場面までなのだよ。
まぁ死んだのは構わない。背後霊も良いだろう。問題は妹が天寿を迎えた後にあった。死した後は魂となり、また生き物として生を繰り返す、という輪廻のサイクル。
妹もその輪廻の輪にクルクルしたそうなんだけどさ。
でも、なんかうまく輪廻転生出来なくて記憶を残したまま生前とは異なる世界に産まれて来てしまったのだ。僕のせいでな! ふははは! 全く記憶に御座いませんわ!
なんかねー、背後霊として妹の魂にべったりくっついてたから、そうなったんだって。驚きだよねー。
……まぁ、そういう訳で僕は……いや、まだ話は続くんだよね。妹がこの世界に産まれて来たのは当然の流れとしても、背後霊な僕は妹にくっついて、この世界にまでしつこく着いてきたらしい。異世界まで心配で付いてくるとか……兄としても、ちょっと過保護過ぎな気がする。
ガッツありすぎだよ、お化けな僕よ。
そんで妹はこの世界で英雄になった。……うん色々端折ると意味分からんな。
まずこの異世界。ここは魔法も魔物も普通に存在するファンタジー世界だったのだ!
すごいよね。ロマンだよね。目からビームだよね。
それで異世界ヒーハーしてた妹なんだけど……この世界……神様も普通に居たのよ。デラびっくり。しかも、沢山。なまらびっくりよ。
そんでその神様……の中の馬鹿二柱が引き起こした戦争。『神魔大戦』と呼ばれる天使と悪魔による戦争が人間のいるこの世界で繰り広げられたそうだ。元々は神様の世界でやってたそうだけど……はた迷惑な事に人間界でドンバチ始めちゃったのだ。
それで……世界は滅茶苦茶になった。幾つもの国が滅び、大陸ごと消え去った国もあったそうだ。
流石にこの事態は他の神様達も捨て置けず、事態解決のために人に『力』を与えることにした。いや、むしろお前らが何とかしろよと思うけど、なんかねー、ルールがあるんだってさ。
回りくどいよね。で、その『力』を神様から与えられた者、それが『英雄』ってわけなのよ。
当時は状況が逼迫してたから人格ではなく実力のみで広く人間から選ばれる事になったんだって。だから英雄のほとんどはクズだったりする。実力はあれど人品は……という感じ。でも、急がないと人類は滅亡寸前だったんだって。
神によって選出された『英雄』達によって天使と悪魔の争いを終わらせる。もうそれしか人類が生き残る術は無かったそうで、悪魔側のボスは英雄達が数の暴力でボコボコにして、天使側のボスは……最強の英雄による少数精鋭、ぶっちゃけ暗殺計画が実行されたのだ。
で、天使のボスを暗殺したのが妹であり僕を産んだマミーという事になる。
まだ意味分からんよね。
英雄になってから人を越えた存在となった妹は……背後霊からレベルアップしていた守護霊的な僕と対話できるようになったのだ。うむうむ、ファンタジーだねぇ。全く覚えて無いから実感無いわ。
それで、僕の存在に気付いた妹は……何故か僕を子供として産むことを決意。英雄として働くことの対価として神様に僕を自分の子供として転生させるよう脅したそうだ。
これは脅された本人から聞いたから間違いない。神様を脅すなよ。確かにいじめたくなる神様だけどもよ。
まぁ、話が長くなったが、あれだ。
僕は前世の妹の記憶を持つ女性から霊体以前の記憶を残して産まれてきた、という……あれ、まとめると短けぇな!
……うん、複雑っぽいけど、まとめると妹の息子なのよ、僕。
前世でもそれなりに可愛かった妹だけど……転生したら目の覚めるような美少女になってた。しかも夫は超イケメン。ぐぬぬ。不思議な嫉妬が僕の胸を焦がしていくぜ。
それで……僕は一才になったのさ。
うん、繋がらないね。でも仕方ないんだ。今僕は誘拐されてて何も出来ない坊やだからさ。
……へるぷみー! この誘拐犯、僕の奥さんなのー!
マジで何してんの、この人。
なんかねー『ジローの初誕生日は妻たる私の物です!』とか言って僕を掴んで走って逃げてるの。もう夜中を越えたから多分僕……一才だ。
はっぴぃばーすでぃ? 妻に誘拐された記念日? 奥さんのエーテル製カプセルにジャストフィットされてて気分はまるで芋虫さんだよ。カプセルの外側の状況がさっぱりで……どうなってるんだろう。
……とりあえず眠いから寝とこう。僕まだ赤ちゃんなんだぜ? 一才児なんだぜ? くぴー……。
翌朝……僕はいつもの部屋で起きた。どうやら逃避行は阻止されたみたい。無事に連れ戻されたようで何よりだ。今日一日が誕生日だからきっとチーちゃんと遊んで過ごすんだろうなぁ。
……庭の方から聞こえてくる折檻の音はきっと気のせい……鈍い音はきっと気のせいなんだよ。まるで肉の塊をサンドバックにしてるような音なんて……ねー?
短編集とはいえ説明も少しは要るんでね? というサービス精神に溢れた一話です。自分でも、ややこしい設定にしたなぁと思わないでもない。