べひさん日記 ある日の訓練風景 ジロー2ちゃい
本編では、かっ飛ばされた日常の風景です。輪廻1を読破後におすすめ。
「第一部隊ー! 斉射三秒前ー! 合わせろー! さん、にー、いち、てぇー!」
ぴかー!
「こりゃー! バラバラじゃないかー! 隣の魔力砲に呼吸を合わせるのー! これじゃモンギシールドはおろか、パパンの槍で全部弾かれちゃうよ! なんかムカつくでしょ? 槍でペンペンされるの」
「「ぷきー!」」
「よーし! 今度は威力を抑えてタイミングを重視! 丁度訓練を見に来たパパンがいるから、あれ的にしよう」
「「ぷしっ!」」
「よーし! 出力二割で発射まで五秒! よん、さん、にー、いち、てぇー!」
ぴかっ!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
今日も訓練は厳しかった。相棒は気付いてないけど、求める水準がアホみたいに高い。コンマレベルの精度を要求するのが普通で私達も気が抜けない。今は父親と追いかけっこして遊んでいるが……お父さん……頭アフロヘアーなのに体は無傷なのね。
十二匹のベヒーモスによる魔力砲の一点集中砲火でもピンピンしてるとか本当におかしい。何あれ、私達の切り札が全く効いてないとか。
相棒もきゃっきゃっと年相応に……
「飛天! かかと落とし!」
ズゴン!
「ああっ! お前靴がまた壊れるだろ!」
……お父さんの脳天に攻撃を繰り出した相棒はその勢いのままに地面に突き刺さってる。片足がピンと。相棒の足が落ちた地面は……爆発したように見えた。なんか抉れてるし。めり込んでるし。
「ちっ、避けられたか。リーチがなぁー」
「せめて脱いでからやってくれよ。お取り寄せすると変なの来るぞ?」
「むぅ。確かに乙女チックなのとか……デニ子の貴族風とかちょっと困るよね。で……どうしたの? パパンがここに来るなんて珍しい……ぬ? くっ! 抜けない!?」
この親子はとっても仲良しで、いつもこんな感じだ。地面に刺さったままの相棒はわたわたしていて可愛い。これもよくある光景だ。
「はぁ……ほら、じっとしてろ」
「ぐぬー」
地面から引っこ抜かれ、父親の腕のなかでデロリとする相棒は、まだまだ小さい。私達が出会ってからまだ一年は経っていないけれど、あの時からすると大きくなったものだ。人間で言うところの大体三才児くらいの大きさらしい。
ベヒーモスならもう大人だけど……人間は成長が遅い生き物だ。
「はぅ、パパンありがとう……あ、もしかして産気付いたの?」
「いや、まだ二人とも大丈夫……というか元気だよ。ジローにも側に居て欲しいって言われてな。それで呼びに来たんだよ」
「そっか。予定だと今週だから……不安なんだろうね。どうなるかな……シオン母さんの赤ちゃん」
「……結局性別は産まれるまで分からないって感じだからなぁ」
「もし産まれてくるのが男の子なら……モンギさんだよ?」
「……だよな。今から増築も考えないと不味いか」
相棒の親達も出産間近で村ではベビーブームが到来した。私もお腹に赤ちゃん居るし。この辺りも大分縄張りとして馴染んできたから群れを拡大してもいいかも知れない。
毎年子作りか……悪くない。
「……ふぅ。今日の練習も終わった事だし、とりあえず帰ろっか」
「ああ……っていうかさっきのは何なんだよ! 死ぬかと思ったぞ!」
ピンピンしてる癖に。相棒の両親達はみんなおかしい。
「ぷしー……」
「……そうだよねぇ。ベヒーモスビームでアフロヘアーとか……ちょっと時代の最先端を駆け抜けてるよね」
……相棒も結構おかしい。そこじゃないのよ。そこじゃ。
「お前……自分が魔力砲使えないからってそれは無いだろうよ……」
「いずれモンギシールドもぶち抜くような素敵な技にするんだー。多分無理っぽいけど」
あのオーガの青いオーラの事かしら? あれは無理よ無理。
「ぷし~?」
「駄目だよ相棒。諦めたらそこでベヒーモスなんだよ? よいしょっと……ん、じゃあお家に帰って……ベヒさん達もおやつにしようか」
「「ぷひー!」」
ああ、誇り高きベヒーモスが飼い慣らされていく。相棒は、いつも温かくてぷにぷにしてるのよね。背中に乗ってると眠くなるくらいで……。
「……息子が……息子が確実に魔物使いとして成長している……俺は……俺は一体どうしたらいいんだ……」
そうね、お父さんはまだ乗せてないわね。一人乗りはハードル高いわよ? 相性があるし、何より怖いのよ、奥さんが。あれどうにかしてもらわないと乗せたくないわよ。
「相棒~、パパンは気にしなくていいよー? いつもの事だし。ああやって悩みながらもちゃんと歩いてるし。それより相棒も出産が近いなら家の中でゆったり産む?」
「ぷしっ」
……無理。怖いもん。それにベヒーモスは満月の下で産むのが伝統なのよ。群れのみんなでお祝いする厳かな儀式なの。
「ああっ、息子がナチュラルにベヒーモスと会話してる……父親としてどう対処したら……いや、分からん」
その後もぶつくさと呟きながら歩く大人と私に乗った幼児は村へとトコトコ歩いていった。
「ぶしっ」
「ぷししっ」
「ぶし?」
「ぷっし! ぷっし!」
「ぶひー……」
ベヒーモスの群れを従えて、ね。
時期的に輪廻の1が終わって、ちょっと経った後です。兄弟が増える少し前のお話ですね。