第3話 偶然?
稲妻とともに響いた雷鳴。
こんなに晴れた日にそんなことがあるのかと、とても驚いた梨里香。
雷が苦手な彼女はおさまるまで目をつぶり、大切な小説本を胸にぎゅっと抱えて身をかがめていた。
昨日のバス停での出来事が梨里香の頭をかすめる。
本を読んでいたはずなのに、不思議な体験をして……それも今となっては本当の出来事だったのか確かめることもできない。
でも、また目を開けて、昨日と同じような状況になったらどうしようと不安が過る。
たとえ夢でも幻でも、あんなに不安な思いをするのはもうごめんだ。
辺りが静かになっても、梨里香はそんな思いからなかなか目を開けることができなかった。
何事もなかったかのように、静かに時間が流れる。
清流も留まることを知らぬように、上から下へと流れゆく。
しばらく経って、梨里香は恐る恐る目を開けてみた。
目の前には先ほどまでと同じ風景。
開けた河原の周りは緑に覆われ、空高くどこまでも清々しい蒼。
木々や草花を揺らす風は心地良く吹き抜けてゆく。
水はどこまでも澄んでいて、絶え間なく流れるせせらぎの音はこころを落ち着かせる。
「なぁ~んだ。考えすぎだよね」
と梨里香は独りごちて、ふうとため息をつくとともに安堵の表情を浮かべた。
そして胸に抱いていたお気に入りのファンタジー小説『Meet You Again』を読むべく、目線を小説に向ける。
やっと読めるとこころを踊らせながら、しおりをはさんでいたところまでパラパラとページをめくった。
どこからともなく吹いた風が梨里香の髪を揺らす。
心地良い風に梨里香の頬も緩む。
「ええっと、昨日はここまで読んだから……」
と、もう一度昨日読んだ最後の方を確認するように読み返す。
* * *
「さあ、早く!」
リリィは少年に手を引かれて、駆け出した。
後ろを振り返る余裕はない。すぐそこまで追っ手が迫ってきているのは明白だ。
「うっ」
リリィは雨の中ぬかるんだ道なき道を走っていたが、足を取られて転んでしまう。勿論手を繋いで走っているのだから、片方が倒れればもう片方も倒れるのは必然だ。
ふたりは立ち上がっては進み、進んでは転び……と繰り返しながら、大きな木の根元で力尽き、とうとう座り込んでしまった。
と、そこに追っ手が……。
* * *
とそこまで読み終えて、「そうそう、ここまで読んだわ」と梨里香は続きを読もうとした。
しかし、ページはパラパラと反対にめくられるように一番最初に戻る。
梨里香は風のイタズラかと思い、もう一度しおりをはさんでいたページをあけた。
すると無風であったにもかかわらず、またさっきと同じようにページは反対に動き出す。
梨里香は状況が飲み込めず、小首をかしげながら、もう一度しおりをはさんでいたページをあける。
やはり同じようにまた最初のページへと戻ってしまう。
梨里香はため息をついてそのページを見つめた。
すると、そこには『第1章 晴天の霹靂』というサブタイトルが浮かび上がる。
え?
サブタイトルが変わっている?
梨里香はこの小説を3分の1程度は読んでいたはず。
しかも第1章のサブタイトルは『嵐の中で』だったはず。
これは一体どういうことなのか。
梨里香は見間違えかと目をこすって、もう一度確認してみる。
しかしそこには梨里香が楽しみに読んでいたものとは全く違うタイトルが記載されていた。
にわかには信じがたく、内容はどうなのかとページをめくろうとしたときだった。
どこからか砂利を踏むような足音が近づいてくるのが聞こえてくる。
「やっと見つけた」
だれかがそう呟いたような気もしたが、梨里香は目の前の小説の方が気になって声の主を確認することはしなかった。
それよりも目の前の疑問に対する答えを早く見つけたかったから。
夏休みなので、きっと誰かが遊びに来たのだろう。
そう思った彼女はあまり気にせず、そのまま次のページへと指を滑らせようとしたのだが……。
お読み下さりありがとうございました。
次話「突然」もよろしくお願いします!