第22話 隣国の伯爵邸へ
ピュリアール国にて準備を整えた梨里香、紫苑、エルトルーシオ、アナスタリナは、彼らを中心とし、4人の供を連れて、隣国であるトレニーヌ国の北部に位置する伯爵邸を目指して出立する。
出発前にエルトルーシオは、梨里香と紫苑に供の紹介をし、それぞれ挨拶を交わしたが、互いに緊張しているためか、少々ぎこちないものとなった。
ハサギール帝国との国境近くの城と家主が述べたため、エルトルーシオとアナスタリナはその辺りで城と呼べるほどの建物といえば、伯爵邸だと判断した。トレニーヌ国の伯爵家ではあるが、ピュリアール王国とも親交がある。その伯爵が関係しているのか。
伯爵は気難しいことで有名ではあるが、そんな悪事に手を貸すような人物ではないと2人は思った。しかし何か事情があるのかもしれないと、とにかくそこを目指すことにしたのだった。
「取りあえずの作戦は立てたが、不備がないか再考する必要があるな」
「伯爵邸まで少し距離があるから、考える時間はたっぷりあるわよ」
前を行くエルトルーシオとアナスタリナの会話を聞きながら、梨里香と紫苑も話をする。
「伯爵邸を城と言ったのか、それとも他にあるのか」
「行ってみないと解らないってことね」
「ああ。作戦の大筋は決めたけど」
「細かなことは現地に行ってから臨機応変に」
「とにかく自分たちの目でどうなっているのか確かめて、その後のことはその時考える」
「……なんて私たちにはハードルが高い気もするけど」
「だよな」
「とにかく足手まといにならないように」
「気をつけなきゃな」
* * *
騎士2名、伝令1名、従者1名を含む総勢8名は、なるべく目立たぬようにと、街の中心部を行くことを避け、城下町沿いにゆっくりと進む。
騎士は言うまでもなく、一戦を交えることとなったときに梨里香や紫苑を護りつつ戦える精鋭が選抜され、他2名も騎士としても戦えるが、伝令はピュリアール王国のロサラル王に状況をいち早く伝えるための早馬を扱える者、従者は皆が安心して今回の王女救出作戦を遂行できるように、身の回りの雑事などを熟せる者が抜擢された。
やがて城下町を抜け、草原地帯へと差し掛かる。そこで一行は少し速度を上げた。
「ここを北上し、キリの良いところで今夜はテントを張ろう」
エルトルーシオは「無理をせず、体力を残したまま伯爵家に向かう」と付け加えた。
「すごーい。キャンプみたい」
目を輝かせて梨里香が言うと、紫苑も続ける。
「なんかワクワクするな」
「ねー」
するとエルトルーシオが小さく咳払いをした。
「はいはい。解ってるよ」
「遊びじゃないってことは」
梨里香と紫苑が少ししょんぼりしたのを見たアナスタリナは、なだめるように言う。
「まあまあ、今はまだいいじゃない。私もなんだかキャンプが楽しみになってきたわ」
その言葉を聞いた梨里香と紫苑は、にんまりとしながら同意を求めるように見つめると、エルトルーシオは小さく息を吐きうなずいた。
「そうだな。旅は楽しく行こうか」
するとみるみるうちに梨里香と紫苑の顔が明るく輝く。
供の4人は、そんな彼らのやり取りを微笑ましく眺めていた。
* * *
草原を抜けて岩場に到着した一行は、馬を降り、ゆっくりと歩く。馬が脚を痛めぬように気をつけて。
梨里香と紫苑も慎重に足を進める。
一行がやっとのことで岩場を抜けると、少し開けた場所に出たが、その頃には陽が傾いて影が長くなっていた。
少しでも早くと馬に乗り、また進んで行く。
いよいよ日没の時を迎え、先頭を行くエルトルーシオが立ち止まり、後ろを向いて告げた。
「この先は森だ。暗闇を行くのはリスクが大きい。今日はここで野営するとしようか」
その言葉を合図に、供が素早く馬を木に繋ぎ、テントを張った。
「わあ、すごい!」
「早い!」
梨里香と紫苑が驚いているとエルトルーシオが言う。
「リリィもシオンも今度は自分たちでできるように練習しないとな」
梨里香と紫苑は「今度は教えて下さいね」「よろしくお願いします」と、それぞれ供に話しかけ、嬉しそうにしばらく彼らと話していた。
「そろそろ夕食の準備にかかろうか」
エルトルーシオの言葉を合図に一同は一斉に動き始め、テキパキと用意を始める。
「ま、準備と言ってもレストランのようなものはできないけどね」
アナスタリナが言うと場が和み、皆の顔に笑みが浮かぶ。
準備が整い、食事を始める前にエルトルーシオから言葉があった。
「今はまだ余裕があるが、伯爵家の状況次第ではこれからどんどん危険な状況になっていくと思う。休めるときに充分休んで、万全の状態で臨もう」
「はっ」
供は気を引き締め答える。
「では、いただきましょうか」
にこりとし、アナスタリナが皆に食事を促した。
旅の食事は質素なものでも、大勢で和気藹藹と話しながら楽しく食べるものと思い込んでいた梨里香と紫苑は、他の者が物静かに黙々と食べる姿を見て、少々居心地の悪さを感じていた。
「なんだか緊張する」
小声で梨里香が紫苑に話しかける。
「静かすぎるよな」
「楽しくおしゃべりしながら……って、雰囲気ではないわよね」
「まあな」
2人の会話にアナスタリナが「まーねー」と同意した。
そこで梨里香は尋ねる。
「外での食事はいつもこんな感じなの?」
「時と場合によるけど、今回はリーダーであるエルトルーシオが黙って食べてるんだから、他の者はしゃべりにくいんじゃないかしら」
「そうね」
「ま、遊びじゃないんだからな」
紫苑が言ったその時、エルトルーシオが口元に人差し指を立てて「しっ!」っと発した。
一同が耳を澄ますと、草むらがガサガサと揺れ、その音が近づいてくる。
誰かがいるのか。
皆に緊張が走る。
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