第22話 考察
今話より『第4章 転換期』に入ります。
エルトルーシオ達は話し合った結果、このまま街で準備をして出発するのではなく、長距離を移動できる馬と、旅に必要な装備や食料を一式揃えるため、また、これまでの経緯とサラセオール王子の一件、今後についてロサラル王に報告するために、一度ピュリアール城に戻ることにした。
* * *
「なるほど」
熱心に話を聞いていたロサラル王は腕組みをし、何かを考えている様子で目線を落とす。
エルトルーシオは友人であるロサラル王に思いをぶつけた。
「ロサ、トレニーヌ国のサラセオール王子は重大なことを隠していたんだ。自国の危機ならいざ知らず、他国の事情だというのにこっちは危険を冒して協力していることを忘れていたのか? それとも身代金の要求があったことを忘れていたのか? いや、そんな大事なことを忘れるはずもない」
「今回の王女の救出については、トレニーヌ国からの要請に応じたものであり、我々が協力するにあたり、全てを包み隠さず伝える義務が彼らにはある」
「それを疎かにする人物を、最早信用できない」
「一度引き受けたからには、この件から手を引くことはできない。国と国との約束だからな」
「それは承知している」
「では、トレニーヌ国に使いを出そう」
「何と?」
「サラセオール王子には隣国の問題解決と、盗賊の男達の捜索、屋敷の悪党達への取り調べ等に力を注いでもらう。それも王女救出の為に大事なことだから、と付け加えれば嫌とは言わないだろう」
「そうだな」
「王女の救出はエルトルーシオ、アナスタリナ、梨里香、紫苑の4名で行うものとする」
「今度は少し時間がかかりそうだ」
「では、伝令を含め、数名を同行させよう。事後報告ではなく、ある程度の状況は把握しておきたいのでな」
「しかし我らだけというのは、もしもの時に面倒なことになりかねないな」
「もちろん、最終的な段階での最前線にはトレニーヌ国の兵を要請する。自国の問題を他国任せにするというのもおかしなことだ」
「ああ。しかしそれまでは俺達だけで充分だ。トレニーヌ兵に大勢でうろちょろされると、かえって迷惑だからな」
「確かに」
「まずは王女が連れて行かれたという、そのお城とやらをのぞいてみようか」
* * *
その頃梨里香と紫苑は、アナスタリナとピュリアール城の庭園を散策していた。
綺麗に咲き誇る花々を愛でながら3人で楽しく過ごす時間は、梨里香と紫苑にとって心安らぐひとときとなる。
東屋で少し休もうとひと息ついたとき、梨里香が急に神妙な顔で話し出した。
「ねえアナ、私思うんだけど」
「どうしたの?」
「身代金っていくらぐらいなんだろう」
「さあ。気になる?」
「一国の王女に対してだから、相当な額だろうね」
紫苑は腕組みしながら言う。
「それって、お金なのかしら」
「オレもそこが気になってた」
「というと?」
アナスタリナの問いかけに紫苑が答える。
「お金は他の女性の家族から身代金として受け取っていたっていうことだろ? ただ金銭目当てならリスクを負ってまで王女を誘拐するのかな。もっと大きな何かがあるように思う」
「それは何だと思う?」
「私は隣国とのいざこざが関係してるんじゃないかなと思うの」
「オレもそう思う。一度は解決したのにまた……ってのが妙にひっかかる」
「今まで何の問題もなく良好な関係を保っていた国が、いきなり貿易を打ち切りたいと伝えてきた、とか変じゃない?」
「北の国――ハサギール帝国の一部の小さな国との国境で、昔から守られている国境線を少しずつ越えて、侵入している気配がある、とかもおかしいよな」
「そうね」
「しかも一国の王女が、ある日忽然と城から姿を消してしまった、とか最早ミステリー」
「ほんとミステリーだよな。城の中でだよ」
「誘拐犯の仲間が城にいた、ということかしら」
「そう考えるのが妥当だね」
「じゃあ、トレニーヌ国の動向は相手に筒抜けってことになるわね」
「そうよね。アナ、よく考えて進まないといけないわね」
とそこへロサラル王との話を終えたエルトルーシオが息を切らしてやって来た。
「ふう。庭園で散歩って言うけど、めちゃくちゃ探したよ」
「息切れするなんて運動不足じゃないの?」
梨里香に笑われ、「ここはお城だぜ。どれだけ広いと思ってるんだ」と鼻息を荒く返すエルトルーシオ。
「まあまあ、落ち着いて」
紫苑がなだめると、アナスタリナが大笑いをする。
それにつられて、最後は全員で笑った。
「で、ロサ王は何と?」
アナスタリナに聞かれ、エルトルーシオはロサラル王と話した内容を報告した。
それに対し、梨里香と紫苑はさっき3人で話した内容について話し、エルトルーシオの意見を聞くことにした。
「なるほど。俺らは身代金の要求があったと聞いただけで、具体的なことに関しては聞いていない」
「ということは、金銭のみの要求か、その他の事柄か、その両方か解らないってことよね」
梨里香はふと疑問に思った。
「サラセオール王子は言い忘れていたのかしら?」
「まさか。そんな大事なこと」
アナスタリナの言葉に紫苑は問う。
「わざと隠しているということ?」
3人はしばし沈黙した。
「なんか臭ってきたわね」
梨里香は手で臭そうな仕草をしながら言う。
「うん。プンプン臭うよ」
紫苑と梨里香の会話にエルトルーシオは「やはりな」と零す。
「トレニーヌ国もサラセオール王子も、信用できないわね」
アナスタリナが言うと、3人は大きく頷く。
この救出劇が一筋縄ではいかないと感じた4人は、今後の行動をどうするか皆でじっくり相談する時間が必要だと考えた。
エルトルーシオは梨里香と紫苑の考察力を頼もしく思い、2人の成長を嬉しく思っていた。
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