第21話 王子の告白
「なぜそれを早く言わない!」
エルトルーシオは怒りをあらわにする。
地下牢に閉じ込められていた女性達を解放し、家主から王女が連れて行かれた場所を聞き出し、梨里香と紫苑が待つ宿に戻る途中のこと。サラセオール王子から「実は身代金の要求があった」と意外な事実を聞いてのことだ。
アナスタリナも「なんですって!」と驚きを隠せない。
「もっと容易く妹を見つけられると、連れ戻せると……」
「そんな簡単じゃないって解ったでしょ?」
「もっと早くそのことを話してくれていたら、作戦も違っていたかもしれない」
「すまない」
王子はうなだれた。
エルトルーシオはふうと息を吐き、気持ちを切り替える。
「まあ、今更どうのこうのと言っても仕方がないことだ」
アナスタリナも今となっては、と同意する。
「そうね。エイレリーナ王女の救出が先ね」
「奴らの目的は何だ? 単なる王女の誘拐と身代金要求ではなさそうだな」
エルトルーシオの言葉に、サラセオール王子は重い口を開いた。
「得体の知れない者からの身代金要求に、はじめは強気で抵抗していた。しかし身代金を払わないと攻撃すると言われ、城壁を強固にした」
エルトルーシオとアナスタリナはこれを聞き、梨里香、紫苑と共にトレニーヌ国へ行った時に感じた違和感を思い出す。
然程大きな国ではないのに、延々と続く城壁の威圧感。
国の大きさ、城の大きさに似つかわしくないほどの巨大とも言える城壁である。
そして城の中庭にいた衛兵の姿。治安の良い国とは思えない、まるで誰かが襲ってくるのが解っていて待機しているような様子であった。
「やはりそういうことか」
エルトルーシオは腕組みをする。
「これから話すことが王女の誘拐と関係あるのか不明であるが」
そう前置きをして、サラセオール王子は一気に話し出した。
今まで良好な関係を保っていた国がいきなり貿易を打ち切りたいと伝えてきたこと、理由を聞いても言葉を濁すばかりで、ただ「申し訳ない」とその一点張りであること。
北の国との国境諍いについて。
北の国――ハサギール帝国の一部の小さな国であるが、昔から守られている国境線を少しずつ越えて、侵入している気配があるということだ。
それをトレニーヌ国が牽制すると、自国の国境内だと言い張る始末。
少しずつ領土を広げようとしているのか、その意向が計り知れなく対処に困っていたとのことであった。
「なるほど」
エルトルーシオは短く言葉を発した。
「それについては解決したのでは?」
アナスタリナはそれらの件についてエルトルーシオと先方に出向き、話をつけてきたきたという事実を忘れてはいない。
「おっしゃる通り、おふたりのおかげで一度は解決したのですが、相手国がまた振り出しに戻そうとしています」
「というと?」
エルトルーシオの問いに、トレニーヌ国への国境を越えたところでエルトルーシオ達を襲ってきた盗賊の男達が、王女の誘拐を含む一連の事柄に関係している、とサラセオール王子は答えた。
「やはりな」
宿屋で盗賊の男達がサラセオール王子の部屋から、親しげな言葉を残し出て来たところを目撃したことを覚えていたエルトルーシオとアナスタリナは、王子に対して感じていた違和感は、それらを隠していたことによるものだと感じた。
王子は申し訳なさそうに神妙な面持ちで謝罪する。
「他に隠し事はないな!」
とエルトルーシオが強く念を押すと、「ああ」と王子は答えた。
「さあ、宿へ急ごう。梨里香と紫苑が待っている」
* * *
その後サラセオール王子は国王に報告するために、ひとり城へと戻って行き、屋敷の悪党達を誘拐の罪で投獄するよう命じた。
宿屋に戻ったエルトルーシオとアナスタリナは、梨里香と紫苑にサラセオール王子の隠していた事柄について伝えた。
そして驚いた梨里香と紫苑に問う。
「サラセオール王子に注意するよう言ったことを覚えているか?」
ふたりは大きくうなずいた。
それを確認してエルトルーシオは続ける。
「今後も油断は禁物だ」
「了解」
「解ったわ」
「さ、それじゃあ今後のことについて話し合いましょう」
アナスタリナの言葉に「その前に」と紫苑は気になっていたことを、冗談交じりに聞いてみた。
「王女の行方について、どうやって聞き出したの?」
紫苑の質問にエルトルーシオは胸を張って答える。
「正面から堂々と、家主に礼儀正しく」
紫苑はニヤリとして言う。
「礼儀正しく? ウソだね」
「それはご想像にお任せします」
そう言いながら丁寧にお辞儀をし、おどけた様子でエルトルーシオが返した。
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