第21話 連れられた場所
エレナことトレニーヌ国の王女エイレリーナは、栗色の髪を綺麗に整えられ、きらびやかなドレスに身を包み凛とした姿で座席に座っている。しかし王女の心の内は暗く、これから向かう場所について思いを巡らせていた。
馬車に揺られること数時間。何度も何度も同じ事を考えていたが、結論には至らなかった。
解らないことが多すぎて、推測することさえできない自分を無力だと気落ちしている。
何のために女性達がさらわれたのか、今まで連れて行かれた女性はどうなったのか。
これからどこに行って誰と会うことになるのか。
それは何のためであるのか。
自分が王女であることが関係しているのか。
使用人が言っていた「あの方」とか「あの山」とは。
何度考えても答えの出ない同じ疑問が堂々巡りし、王女は息苦しくなっていた。
「少し窓を開けてもいいかしら」
エイレリーナ王女は御者に問う。
「窓は開けられません」
「息苦しくて」
「窓は開けられません」
「逃げたりはしません」
「そういう言いつけですので」
「お願いします! 息が詰まりそうなんです」
「開けてやりたいのはやまやまなんだが、後でこっぴどく叱られるんで」
「暴力を?」
「まあ、そんなところだな」
「そうですか。では、あとどのくらいですか?」
「もう少しだよ。だから大人しくしていて下さい」
王女はそれ以上言葉を発することはなかった。自分のせいで御者が暴力を振るわれるのを避けたかったからだ。もう少しで到着するとのこと、エイレリーナ王女はそれまで我慢しようと思った。
それからしばらくして、馬車の速度が遅くなったのを感じた王女は、いよいよ到着の時が来たと姿勢を正して気を引き締める。
やがて御者が「どうー」と手綱を引くと馬車は停車した。
すると大きな門がギイと音を立てて開く。
それを合図に御者はゆっくりと馬車を進める。
建物の入り口の前で止まり、御者が「お連れしましたー」と声をかけた。
中から出てきた使用人の男が馬車の扉を開け、確認する。
「ほう」
そう言って使用人はエイレリーナ王女の腕を掴み、「降りろ」と発した。
王女は言われるまま馬車を降りる。辺りを見渡すが、そこはエイレリーナ王女の知る場所ではなかった。
建物を見上げるが、すぐに促され建物に入ると、王女は使用人に連れられて、広間を抜け廊下を進み階段を上ったり……と少し歩かされた後、ある人物の部屋に入る。
「おお! 待っておったぞ」
装飾の施された椅子に座った人物は、そう言うとエイレリーナ王女に笑顔を向ける。
王女はこの人物があの方なのかと、訝しげに見据えた。
「お前の名は何という?」
エイレリーナ王女は地下の牢で名乗ったとおり「エレナ」と答えた。
「エレナ。なるほど。どこから来たのだ?」
「どこかのお屋敷の地下牢よ」
「そうではなくて、どこに住んでおるのか聞いているのだ」
「街の方……でしょうか」
「……質問を変えようか。トレニーヌ国の王女エイレリーナであろう?」
その言葉を聞いてエイレリーナ王女はビクッとした。
しかし王女だと悟られてはならないと本能的に感じた王女は否定する。
「まさか」
「王女だと名乗ったと聞いているぞ」
エイレリーナ王女は牢に入れられたときは動揺してしまい、解放されたい一心で、つい王女だと口走ってしまったことを後悔した。
「私は……王女ではありません」
もし自分が王女だと知られるとどうなるのか。王家に、国民に迷惑がかかるのか。解放される望みは消え失せてしまう。
「まあよい」
王女はホッと息を吐く。
そこで男は物陰からのぞくフードを被った人物に目で合図をし、うなずき合う。
しかし次の瞬間、男はニヤリと笑みを浮かべた。
「少々食い違いがあるようだが。まあ、ここに連れてきたのはトレニーヌ国のエイレリーナ王女であるかの確認のため。王女を知る者が本人だと確信したようなので、それで充分だ」
「えっ! どういうことですか?」
「そういうことだ」
「私を知る者がこの中にいるというのですか!?」
「私を知る者だと? 王女のことか?」
うっすら笑みを浮かべた男の言葉に、王女はハッと口を閉じる。
とそこへ息を切らした使用人がやって来て、地下牢の女性達が逃げたことを報告した。
「何だと!」
「何者かの侵入により、全員脱出したということです」
「では急がねばならぬな」
と態度を強める男に王女は問う。
「目的は何なの?」
「まあ、身代金ってとこだな」
「それだけではないはず!」
エイレリーナ王女は聞き出そうとするが、男は答えるつもりはない。
満面の笑みを浮かべた男は言い放つ。
「これから活躍してもらうぞ」
その男の高笑いが部屋中に響き渡った。
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