第3話 散策
次の日、梨里香は祖母に朝食は昨夜の『里芋カレー』を食べたいとリクエストした。
祖母は朝からカレーとは、と少し驚いたが、梨里香が可愛くねだるものだから、昨日のカレーを温め直してサラダとスープとともに食卓に並べた。
もりもり食べて、元気に動く。それが梨里香のスタイルだ。
朝食の用意ができるまで、梨里香は2階の部屋で夏休みの宿題にとりかかる。
少しの時間だったが、『宿題をやっている』ということが肝心だった。
梨里香は朝食を美味しく食べた後、散歩がてら祖父母の家の近くを探索することにした。
ここには子供の頃から何度も訪れてはいるが、いつもは家族と一緒だったのであまりうろうろすることはなかった。
まだ知らない場所が、読書をしたりするのにとっておきの場所があるかもしれないと考えたからだ。
朝から少しでも宿題に手をつけたのは、罪悪感なく好きなことを堪能したかったからだ。
好奇心が旺盛で、なんでもやってみたいと思う梨里香は、知らない場所を見て歩くのが好きだった。
そんな梨里香のために祖母は、おにぎりをにぎる。
好奇心旺盛な梨里香は、一度探索に出かけたら時間を忘れてしまうところがあることを知っているからだ。
祖母は「おなかがすいたら食べなさい」と、梨里香に少し大きめのおにぎりを2つ持たせた。
梨里香は祖母が作ってくれたおにぎりを、リュックにしまう。
「あんまり遠くに行っちゃだめよ」
祖母にそう言われて、梨里香は「はいはい」と笑顔で返す。
「夕方には帰りなさいよ。じゃないと夜ご飯、先に食べちゃうからね」
笑いながら言う祖母の言葉に、それは大変だと大袈裟に頷いてみせた梨里香は、玄関の引き戸をガラガラと開ける。
「いってきま~す」
元気よく出かけた梨里香だが、これといって行く当てもない。
だが午前中は日差しも然程強くなく、素肌をなでる風も心地良い。
梨里香の住む都会とは違って、空気もよく澄んでいて涼しく感じる。
今日は今まで行ったことのない方に行ってみようと、少し山の方へと足を伸ばした。
山といっても然程高い山ではなく、丘という表現がしっくりくるほどの場所である。
少し歩いたところで分かれ道にさしかかった。
右に行けばさらに山奥に、左に行けば川に行く道だ。
さあ、どちらに行くべきか。
梨里香は川のせせらぎをBGMに、お気に入りの小説『Meet You Again』の続きを読むのは素敵だろうと想像した。
従ってこの分かれ道は左に進むことにする。
少し歩くと水の流れる音が聞こえてくる。
さらさらと、とても透明感のあるせせらぎだ。
目的地はもう近いとウキウキしながら歩いていた。
もうすぐあのファンタジー小説の続きが読めると、とても楽しみな気持ちで。
梨里香はようやく浅瀬が見下ろせる場所に到着した。
河原までは数メートルといったところだろうか。
ここで座れる場所を探して休憩がてら本を読むか、なんとか下へ降りる道を見つけて、河原で読むか考えた。
ふと見ると、河原には腰かけて読書をするのにちょうど良い感じの岩がある。
人生って、本当に選択の連続ねと少し大袈裟な表現を浮かべながら、梨里香はこの下に降りて河原の岩に腰かけて読書をすることを選んだ。
そして辺りを見渡して、どうにかしてこの数メートル下まで降りられる道は、方法はないものかと探した。
すると少し先に人工的な階段のようなものが見える。
嬉しくなって梨里香はそこまで走って行き、階段を勢いよく駆け下りた。
ようやく着いた河原で、先ほど上から見つけた岩を探す。
お誂え向きに作られたような岩に腰かけ、澄んだ空気を思いっきり吸い込む。
目をつぶりせせらぎを聞きながら、「ああ、癒やされる~」と独り言を口にするほどリラックスしていた。
周りの景色も緑に覆われていて、河原は開けた場所で見通しも良く、見上げればどこまでも高く蒼い空。
梨里香は絶好の読書日和に、読書にうってつけの場所を見つけられたと嬉しい気持ちでいっぱいである。
いよいよ読書タイムだとわくわくした気持ちでリュックを肩から下ろした梨里香が、中に入れていたファンタジー小説『Meet You Again』を取り出したその時だった。
大きな稲光とともに、突然轟音が響く。
梨里香は驚き、目をつぶって身をかがめた。
こんなに晴れているのに雷とはどういうことか。
梨里香は雷鳴がおさまるのをじっと待っていた。
というよりは、驚きと恐怖で固まっていたといおうか。
しばらくして辺りがもとのように静かになったので、梨里香は恐る恐る目を開けてみた。
お読み下さりありがとうございました。
次話「第3話 偶然?」