第19話 見つけた(1)
エルトルーシオ達は一度屋敷から離れ、夜になるのを待った。
先ほどの話から、アナスタリナが地下の牢にいるのは明白である。屋敷に動きがない様子から、差し迫った危険もなさそうだと判断し、作戦を立てるために宿に戻ったのだ。
しかしエルトルーシオ達がその場を去ったすぐ後、屋敷の方に動きがあった。
金色の美しい髪をした1人の女性が、髪は整えられ、きらびやかなドレスに身を包み、男に連れられて屋敷から出て来たのである。男はその女性を、扉の前に止めてあった馬車に乗るように促した。
しかし馬車を目の前にし、それまでおとなしく従っていた女性は、馬車に乗ることを拒み、その場から一歩も動かなくなった。
「おい、なにをしてる。さっさと馬車に乗れ」
男に腕を掴まれてもその手を振り払い、唇を一文字にきゅっと結び、毅然とした態度で男を睨みつける。
「なんだ、生意気な!」
そう言うと男は強引に馬車に乗せようと、大きな手で今度は女性の肩を掴んだ。
女性は「やめて!」と声を荒らげ、渾身の力を込めて男を突き飛ばす。
よろめいた男は転びそうになり、それを食い止めようと指先に触れた物に思いっきりしがみついた。
その弾みで、馬が大きく前足を上げ嘶く。突然尻尾を掴まれた馬は驚き、誰も乗せずに馬車もろとも走り出した。
慌てた男は、「待てー」と叫びながら走って馬車を追いかけて行く。
その時、屋敷の扉がギイと音を立てた。
騒ぎを聞きつけて使用人が女性の元にやって来たのだ。
「いったい何の騒ぎだ。馬車はどうした?」
女性がかいつまんで説明すると、大きなため息とともに「今日はムリだな」と使用人は腕組みをする。そして女性に「次の予定が決まるまで、もうしばらく牢にいてもらう」と告げ、彼女を連れて牢へと向かう。
綺麗なドレスを纏っていた金髪の女性は、元の服に着替えさせられ、また牢に戻ってきた。
牢にいた他の者たちは、一度ここから出て行って戻ってきたのははじめてだと、たいそう驚いていたが、なにはともあれ、彼女の元気そうな様子に安堵する。
次の日の早朝、再び屋敷に戻ったエルトルーシオ達は、昨夜の出来事などつゆ知らず、建物の横にある物置小屋の陰に身を潜め、屋敷の様子をうかがう。
「変わりはないようだな」
トレニーヌ国の王子、サラセオールの言葉に一同はうなずいた。
何の動きもないままに、ただ時間だけが過ぎてゆく。
梨里香と紫苑は少し緊張の糸が緩んだ様子で、退屈そうにしていた。
「ふたりとも、こうやって待つのも仕事のうちだぞ」
エルトルーシオは、はははと笑いながら言う。
「そう言われても……」
梨里香は唇を尖らせた。
「いつまでこうして待っているのか、先が読めないだけに、ずっと緊張しているのは難しいよ」
紫苑はそう言って足元の小石をつまみ、ポイと放り投げた。
すると小石が何かに当たり、カチンと乾いた音を鳴らす。
金属音に驚き、4人は顔を見合わせ、その音がした方に走り寄る。
草をかき分け、音の主を探すと、地面に鉄板のような物が見えた。
「これか」
エルトルーシオが覆われている草を取り除くと、そこには金属製の大きな蓋のような物があった。
「これは?」
サラセオール王子は問う。
「シオン、手伝ってくれ」
エルトルーシオは、王子の問いには答えずに、紫苑とその“蓋”を持ち上げる。
四角い鉄板の一辺は、2つのちょうつがいで止められていたが、その反対側が持ち上がった。
中は暗闇で、奥までは見ることができなかったが、地上近くには日の光が入り、階段らしき石段が見られた。
「きっとこの下はどこかに繋がる通路だろう」
エルトルーシオは先ほどの王子への答えを放ち、続ける。
「さて、どうするかな」
先ほどまでとは打って変わって緊張の糸が走り、4人を包み込む。
エルトルーシオは何やら考えている様子だが、梨里香、紫苑、サラセオール王子はゴクリと唾を飲み込んだ。
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