第18話 王女を探して(4)
エルトルーシオは、彼らがトレニーヌ国への国境を越えたところで襲ってきた盗賊の男達が、サラセオール王子の部屋から親しげな言葉を残し出て来たことに驚く。
しかしその事を王子にどう聞けば良いのか。まさか「あの怪しげな連中は、王子のお知り合いですか」などと聞けるわけもない。
エルトルーシオ達はその場に立ち止まり、王子の言葉を待つ。
それに気づいたサラセオール王子は、4人の前までやって来て言葉を発した。
「今の奴らを見たか?」
「はい。どうなさいました?」
エルトルーシオは問うた。
「いきなり私の部屋にやってきて、王子かと尋ねてきた」
「知った顔ではないのですか?」
「まさか。あのような輩に知り合いはおらぬ」
「王子は何とお答えに?」
「私は否定したが、相手は確信していた」
「それはどういう……」
エルトルーシオの言葉に間髪入れずサラセオール王子は言った。
「私のよく知る人物からの情報だと」
訝しげに王子を見つめていたエルトルーシオであるが、王子の表情から嘘はついていないと判断した。
「王子のよく知る人物とは?」
「見当も付かない」
「そうですか。ではこの件はまた後ほどということにして、早速王女を探す準備をしましょう」
「そうね。日の明るいうちに城下町の市場付近から雑貨屋のある通りの外れ辺りへ行って、早速手はず通りに進めましょう」
アナスタリナの言葉に皆はうなずき、各々部屋に鍵をかけ宿屋を後にした。
雑貨屋を過ぎた頃から徐々に人もまばらになり、街のはずれにさしかかったときには、道行く人は誰もいなくなっていた。
いつまでも5人で行動していては折角の作戦が無駄になると、アナスタリナは1人先を行く。
残る4人はアナスタリナと距離を置き、大きな木の陰に身を隠した。そして一定の距離を保てるように気をつけて、木や建物の陰に隠れながら進んで行く。
遠目に見守るエルトルーシオたちであるが、アナスタリナの周りには誰も近づく様子はなかった。
* * *
「まあ、初日から成果が出るとは思っていなかったから、明日また頑張ればいいんじゃないかな」
紫苑の言葉に、全員うなずく。
今は宿屋に帰り、夕飯を食べている5人。今日は下見だなどと言いながら、明日の打ち合わせをしている。
明日は市場の辺りから公園にかけてアナスタリナが歩いてみることにした。以前連れ去られそうな女性を助けた場所だ。
そこから雑貨屋の前の道を街のはずれまで歩く。それを繰り返す。一見無駄に見えるかもしれないが、そうして時間ごとの様子を見ながら、アナスタリナが不審人物に遭遇するのを待つ。情報の少ない中、これ以外に方法はないのだ。
それから数日。これといって成果もないまま同じことの繰り返しの日々を送っていた。もうこの辺りでは無理なのかと諦めかけていたところに、一条の光が差した。
いつものようにアナスタリナが市場の辺りを歩いていると、道の脇に具合が悪そうにうずくまっている人物を見つける。
さり気なくエルトルーシオ達に目配せをして、アナスタリナはその男に声をかける。
「どうかなさいました?」
しかしその男は何も答えずに、ただうつむいて胸を押さえているだけである。
アナスタリナはもう一度言葉を紡ぐ。
「大丈夫ですか?」
「ううっ」
唸るように発した声にアナスタリナは「何かお手伝いできることはありますか?」と尋ねる。
するとその男はバッと顔を上げた。
「何をすれば良いですか?」
アナスタリナの問いに「立ち上がるのに手を貸していただけますか?」と弱々しく発した。
「ええ、もちろん」
そう言ってアナスタリナは男の手を取り、自分の肩にその手を回して男が立ち上がるのを手伝った。
ゆっくりと立ち上がり、男は礼を述べる。
「歩けますか?」
アナスタリナが問うと、男は「ええ、もちろん」と答え歩き出そうとするが、よろめいてしまう。
すかさず手を貸したアナスタリナに、男は言った。
「申し訳ないですが、自宅まで付き添ってもらえませんか?」
「えっ」
「あ、すみません。いきなりこんなことを言って、ご迷惑とは重々承知です。しかし急いで帰らねばならぬ用がありまして、1人では帰れる自信がないのです」
アナスタリナは少し渋るような素振りを見せながらも、計画通り男に付き添って歩き出した。
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