第18話 王女を探して(3)
王子にはどうしても一人部屋に泊まってほしかった4人は、ホッと胸をなでおろす。
サラセオール王子のことをまだ心から信用できていないエルトルーシオは、彼に計画の一部始終を明かしたくなかったからだ。
なぜなら、いくら妹の捜索を頼みたいからといっても、ピュリアール王国に何の連絡もなしに、いきなりロサラル王の前に無礼な現れ方をした、ということが今でも気になっているからである。国として正式に依頼するなら、それなりの道筋を立ててしかるべき。本当に妹の捜索だけが目的なのか、それとも他になんらかの狙いがあるのか、はっきりするまでは油断しないようにとエルトルーシオは考えた。
第一、一国の王子と同室では気が休まらない。
話がまとまったところで、荷物を置くべくそれぞれ部屋に入る。
梨里香とアナスタリナは自分達の部屋に荷物を置き、不具合が無いか一通りの確認を終えると、2人で隣の紫苑とエルトルーシオの部屋の扉をノックした。
「はーい」
紫苑の声にアナスタリナは「入るわよ」と告げて扉を開ける。
「待っていたぞ」
エルトルーシオの言葉に梨里香とアナスタリナは軽く会釈をし、部屋に入った。
その頃。隣の部屋でサラセオール王子は、自分の持ってきた荷物の中から衣類を取り出し、備え付けのクローゼットのハンガーに丁寧にかけていっていた。いつもなら周りの者がしてくれることも、今は自分でしなければならない。
「ここにどのくらい滞在することになるのだろう」
王子は不安げにそう呟いた。
そこへ誰かが部屋の扉をノックする。
「誰だ」
王子は、きっとエルトルーシオ達だと思いながらも、念のために聞いてみた。
しかし返事はなく、またノックの音だけが響く。
サラセオール王子は、「エルトルーシオか?」と訊ねるが、扉の外からの返答は、さっきよりも激しいノックの音ばかりだ。
苛立った王子は、つかつかと扉の所まで歩み寄り、「冗談は止めてくれ」と言いながら扉を開いた。
と同時に数人の男がなだれ込み、王子を部屋に押し戻した。
「な、何をする!」
「サラセオール王子とお見受けしました。どうぞお静かに」
リーダー格と思われる男がそう発し、鋭い目を王子に向ける。
「誰なんだ。私に何の用だ」
王子は男たちを見、「盗賊か」と問う。エルトルーシオ達がトレニーヌ国に入った時に襲われたという盗賊達の風貌と似ていたからだ。
「さあ、どうかな」
リーダーの男はニヤリとして言った。
他の男がサラセオール王子の肩を突いて、「座れ」と近くの椅子に座らせた。
「何が狙いだ」
「いや、ねえ。一国の王子がこんな街中にのこのことやって来るなんて、どういうことか気になってね」
王子がこの宿屋に来ていることは、城の中でもごく一部の者しか知らぬこと。なぜこの男達はそのことを知っているのか。
「なぜ私がその王子だと思うのだ」
フッと鼻で笑うように男は言う。
「とある人からの情報でね」
「誰だ、そいつは」
「王子のことをよく知る者、とだけ言っておこうか」
「私は王子とは言ってないぞ」
「まあ、そういうことにしておこうか。では、今日のところはこれにて」
そう言うと男達はくるりと向きを変え、部屋から出て行こうと扉の方へ足を踏み出した。
「おい! 待て!」
サラセオール王子は、彼らの正体と目的が解らぬまま帰すことはできないと、呼び止める。
しかし男達はそのまま王子を振り切り、部屋の外に出る。ちょうどその時、隣の部屋から出て来たエルトルーシオ達を目にしたリーダーの男は、「では王子、またいずれ」と言葉を残し、その場を去った。
エルトルーシオは、男達の後ろ姿を見送る。
紫苑はその男達を見て、ハッとした。
「あいつら……」
「シオンも気づいたか」
エルトルーシオの言葉に、紫苑は頷く。
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