第2話 気のない返答
梨里香は入浴をすませたあと、里芋カレーを煮込んでいる間、祖父母たちと梨里香が手土産に持ってきたカステラを食べていた。
祖母が入れてくれた紅茶を飲みながら、久しぶりの対面に話は弾む。
学校での出来事や勉強の話など積もる話は山のよう。
和気藹藹と過ごす中、梨里香はここに来るまでに起こった不思議な体験をふたりに話した。
単なる話題として。
今日昼過ぎに自宅を出てからデパートへ行き、その後バス停でバスを待つ間、大好きな小説『Meet You Again』を読んでいたこと。
その時、急な落雷に驚いたこと。バスが遅れてきたこと。傘を忘れて濡れながら道に迷ったこと。少年が助けてくれて雨宿りができて、でも、いつの間にか彼が消えていたこと。そのまま眠ってしまって朝になって、それから、それから……。
また雷の後、目を開ければ元のバス停で『Meet You Again』を広げた状態で座っていたこと。
驚いたこと、大変だったこと。でもへこたれなかったこと。
梨里香は今日遭った不思議な出来事を、できるだけ細かく丁寧に話していった。
はじめは単なる話題として話していた梨里香だったが、次第に熱がこもり、息をつくヒマもないぐらいに夢中で、一気に話し込んでいた。
その梨里香の話を真剣に聞いていた祖父母が、途中顔を見合わせて驚いていることにも気づかないほどに。
しかし祖父母はその話にどう返したらいいのか考えあぐねていたので、「ほう。それは大変だったねぇ」と、気のない返答をする。
梨里香は自分が常識では考えられない不思議な話をしていることは、充分承知している。
だが、賛同してはもらえなくても、理解というか信じてもらいたかった。
バスを待つ間の出来事が夢や想像とはどうしても思えなかったから。
梨里香は一生懸命に話すが、真剣には受け止めてもらえないようだった。
「ホントだよ」
「そうかそうか」
「ウソじゃないよ。ホントなんだから!」
「はいはい」
「梨里香はウソをつくような娘じゃないっていうのは、よく知ってるよ」
そう言って祖父母はニコニコと笑顔を返すばかりであった。
もうこれ以上は言っても理解してもらえないと悟った梨里香は、少し寂しい気持ちにはなったが、仕方がないと、そこで話題を終えることにした。
その後いつものように楽しく大好物の『里芋カレー』を頬ばって満足し、その日はゆっくりと休むことにした。
お手伝いは明日からということで。
「おやすみ」
「おやすみ」
それぞれに就寝の挨拶を交わし、梨里香は自分がいつも利用している2階の部屋へと移動した。
いろんな出来事があった梨里香は、布団に入るとすぐに夢の世界へと旅立った。
少しして梨里香の様子を見に行った祖母は、梨里香が眠っているのを確認する。
可愛い孫の安心しきった寝顔を、しばらくの間微笑ましく見つめてから、階下に向かった。
そして食事の後片付けが終わった祖母は、居間の祖父のところに行ってふうとため息をつく。
「ねえ、おじいさん、どう思う?」
「どうって、さっきの梨里香の話か?」
「ええ」
「ついにその時が来たのだろうな」
「あの子に話すべきかしら」
「いや、あの子自身が自分で見つけるしかない」
「そうね」
2階ですやすやと眠る梨里香は、祖父母が居間でそんな会話をしていたことなど、知る由もない。
お読み下さりありがとうございました。
次話「第3話 散策」もよろしくお願いします!