第18話 王女を探して(2)
まさかサラセオール王子が同行すると言い出すとは、とエルトルーシオは一瞬眉をひそめたが、承諾したのは、何か思うところがあってのことだ。
王の間を出たところで、アナスタリナが口を開いた。
「あの王子、妙に気になるわね」
「アナも気づいたか」
「やっぱりエルもそう思うのね」
2人の会話に梨里香も紫苑もついていけずに、キョトンとした面持ちだ。
紫苑は問うてみることにした。
「サラセオール王子が何か?」
「ああ。何かひっかかるんだ。ピュリアール城での一件といい」
「どういうことですか?」
「いや、まだはっきりしないことなので。しかしシオンもリリィもあの王子には気を付けて接するように」
気を付けて接すると言われても、どこをどのように気を付ければいいのか解らず、梨里香と紫苑は顔を見合わせる。
「心を許してしまわないように、ってことよ」
アナスタリナに言われて2人は困惑する。
「シオンもリリィもすぐに人を信じてしまうからな。様子が解らない以上警戒しておくべきだ」
「用心して、何かあれば備えられるし、何もなければそれでよしってことだね」
紫苑の言葉にエルトルーシオは「そういうことだ」と答えた。
それから夕食を済ませた後、エルトルーシオ、アナスタリナ、紫苑、梨里香の4人は、テラスで紅茶を飲みながら、雑談をしていた。
周りには衛兵の姿がチラホラとうかがえる。
「城の中庭に衛兵とは」
エルトルーシオの言葉に「妙ね」とアナスタリナは答える。
「治安の良い国のお城とは思えない感じだね」
と、紫苑も続けた。
「なんだか怖いわ」
梨里香の言葉に「何が?」と紫苑が訊ねる。
「だって、まるで誰かが襲ってくるのが解っていて待機しているようじゃない?」
「確かに」
紫苑は頷いた。
* * *
数日後、準備を整えたエルトルーシオ、アナスタリナ、紫苑、梨里香、それにサラセオール王子を加えた5人は、エルトルーシオの作戦通り、城下町へと向かった。道中、エルトルーシオの言葉を思い出し、少々ぎこちない素振りの梨里香とは違い、紫苑は落ち着いてサラセオール王子と接していた。
積極的に話しかけて、ある意味様子をうかがっていたのだろう。紫苑は紫苑なりに王子という人物を見極めようとしているようだ。
城下町の市場付近から雑貨屋のある通りの外れあたりで待機し、まずは様子をうかがうことにした。
しかしその前に数日間宿泊できるように、宿を決めておく必要がある。前回の宿屋とは違う宿屋を求め、一行は歩みを進める。
雑貨屋を通り過ぎた辺りに、ちょうどお誂え向きの宿を見つけ、5人はそこで数日間の予定で部屋をとった。アナスタリナと梨里香は同室、エルトルーシオと紫苑が同室。サラセオール王子は1人部屋ということで話はまとまった。しかし王子は自分もエルトルーシオ達と同室でよいと言い出して、その場をざわつかせる。
「一部屋に3人では流石に狭く感じてしまいますよ」
エルトルーシオの言葉に王子はキッパリと答える。
「いや、大丈夫だ。皆が相部屋だというのに、私ひとりが贅沢はできぬ」
「王子が想像しているより、ずっと狭いですから。きっと1人でも窮屈に感じるんじゃないですか?」
紫苑の言葉にサラセオール王子は首を横に振って、「そんなことはない」と言う。
「それに3人部屋はないということなので、5人で来ている以上、誰かが一人部屋になるのは必然」
アナスタリナも、なんとしても王子には一人部屋を使って欲しくて、口を開く。
「ではエルトルーシオ殿に一人部屋を……」
サラセオール王子の言葉を遮って梨里香がイタズラっぽく笑いながら口をはさんだ。
「あ、もしかして王子は1人じゃ怖いんですか?」
それを聞いて紫苑も話を合わせるべく、「なぁんだ。そうなんですね。王子って案外怖がりなんですね」と笑いながら言う。
「ば、バカを言うではない。一国の王子が1人が怖いなどということがあるものか」
王子は少し声を大きくして放った。
「じゃ、一人部屋でも文句はありませんね」
間髪を入れずに言ったエルトルーシオの言葉に、サラセオール王子は渋々うなずいた。
王子にはどうしても一人部屋に泊まってほしかった4人は、ホッと胸をなでおろす。
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