第18話 王女を探して(1)
エルトルーシオは、治安が良いはずであるこのトレニーヌ国で、まず国境を越えたときに襲われたことと、宿屋での一件、それに城下町で体験したこと、雑貨屋の店主から聞きだした噂話を総合的に考察して、ある結論にたどりついた。この“王女失踪事件”を含む、街の女性が行方知れずになるという一連の出来事には繋がりがあるのではないかと、しかも何か大きな力が働いているのではないかと考えたのだ。
そしてある仮説を元に作戦を立てたわけだが。
エルトルーシオの作戦を聞いて、国王をはじめとするその場にいた者たちはそのリスクを考え唸った。
少し無謀だとも思えるようなものではあるが、ある意味理に適っているとも言える。
上手くいけば事件解決といくかもしれない。
しかしそんなに上手くいくとは限らない。
今ある情報だけではあまりに漠然としていて、それぞれが独立した出来事だ。
方々に散らばった点と点をかき集めたにすぎない。
だが他に方法が無いことは皆が理解していることである。
その点と点を結ぶ線を導き出すためにも、少し大胆な方法を試さざるを得ない。
エルトルーシオは、そう力説した。
作戦というのは、アナスタリナをおとりに使うというものである。
上手く潜入できれば、中の情報も掴みやすい。
今は誰が何のためにそのようなことをしているのかも解らないし、どこに連れて行かれたのかも不明である。その為、まず場所を特定し、相手を知る必要があるのだ。
その上で、どのように王女を助け出すかを考えねばならない。
ある意味、それからが本番である。
雑貨屋の店主から聞きだした話から、エルトルーシオは失踪した女性達にある共通点を見出していた。
まず、身なりがそれなりに良く、物静かな雰囲気を纏った女性であること。
1人で歩いていたということ。
道で倒れている人に声をかけたということ。
そして倒れている場所は、城下町の市場付近から雑貨屋のある通りの外れあたりが最も多いということ。
それらを踏まえて目撃情報の多い場所に、美貌のアナスタリナがオシャレをして1人で出かけて行く。
歩くのは1人ではあるが、他の者はアナスタリナから少し離れて、彼女の様子をうかがいながら待機をしている。
そこで道で倒れている人がいれば、アナスタリナが声をかけ、介抱する。
その人物が“王女失踪事件”のカギを握る者ならば、そこで介抱した者の善意につけ込んで、自分の家まで付き添ってほしいと言うはずだ。そしてアナスタリナが騙されたふりをして、そのまま潜入するという作戦。
それを聞いて一同は、相手がどんな組織でどのような目的でそんなことをしてるのか解らないまま、彼女を危険にさらすこの作戦に、二の足を踏んだ。
「時間をかけたくないのです。王女の御身が心配ではないのですか?」
エルトルーシオの問いにトレニーヌ国王は険しい顔を浮かばせる。
「心配でないわけがあるまい! 一刻も早く見つけ出したいに決まっておる」
「しかし……」
サラセオール王子は、そう言いながらアナスタリナの方をチラリとうかがった。
「私なら平気です。お任せ下さい」
「アナスタリナは武術や剣術にも長けておりますので、ご心配には及びません。それなりの教育も受けておりますので、相手に怪しまれない優雅な身のこなしもできましょう。我々も近くに待機いたしますので何かあれば対応できます。迷っている時間はありませんよ」
エルトルーシオの言葉に国王は、「そうだな。よろしく頼む」と同意した。
「では、わたくしもご一緒させていただくということで、よろしいですね?」
サラセオール王子の発言に、一瞬驚いたような表情を浮かべたエルトルーシオであったが、フッと笑みを浮かべ「お好きなように」と返した。
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