第17話 トレニーヌ国(3)
梨里香、紫苑、エルトルーシオ、アナスタリナの4人は、トレニーヌ国の王子、サラセオールに会うべく、城に向かって宿屋を後にした。サラセオール王子の妹である王女がある日忽然と姿を消したため、その捜索に手を貸すためである。
目的地のトレニーヌ城へは、ここから1時間弱という距離。
城下町を出てからは、草原を少し行くので馬に乗れば数分であるが、流石に城下町を馬で行くことはできない。4人は街では馬を引きながら歩いた。
しかも馬4頭を引き連れて街の真ん中を突き進んで行くのは少し憚られたため、街の端をぐるりと大回りして城下町を抜ける。そのため、数十分かかってしまうのだ。
梨里香も紫苑も珍しい光景に目移りしながら歩いているため、速度はかなり遅い。
エルトルーシオもアナスタリナも、そんな2人を微笑ましく見守っていた。
少し名残惜しそうな梨里香と紫苑であったが、城下町を出ると、一行は馬に乗り城を目指した。
ピュリアール王国の城下町より規模は小さめではあるが、活気に溢れた街並みがみるみる小さくなってゆく。4人は他国への訪問とあり、いささか緊張の面持ちで城へと急ぐ。
馬を走らせしばらく。
大きな城壁が近づいてくる。
実際には一行が近づいているわけだが、その大きさに距離を詰めるごとに近づいてくるような錯覚に陥るのだ。
然程大きな国ではないのに、延々と続く城壁に少々の威圧感を4人は感じていた。
「トレニーヌ城の城壁って、あんなに大きかったかしら」
アナスタリナは皆に聞こえないほどの小さな声で呟いた。
国の大きさ、城の大きさに似つかわしくないほどの巨大とも言える城壁。
城門まであと数十メートルのところで、エルトルーシオは馬を止める。
「さあ、行くぞ」
そう言ってまた馬を走らせた。
他の3人も気を引き締め大きく頷き、後に続く。
* * *
トレニーヌ国の王の間に案内された梨里香と紫苑、それにエルトルーシオとアナスタリナは、部屋に入ると一礼し、国王とサラセオール王子に挨拶の言葉を述べた。
「おお。よく来て下さった。お待ちしておりました」
丁寧な言葉で話す国王に、エルトルーシオは「お待たせいたしました」と答える。
目の前の椅子に座るように促された4人は、「では、失礼いたします」と着席した。
「早速ですが……」
サラセオール王子はその後特に進展はなかった旨を話す。
「そうですか。実は我々も道中少し情報を集めてみたのですが、大きな手がかりになるようなことはありませんでした」
「そうか」
うなだれる国王にエルトルーシオは続ける。
「はい。しかし、城下町で少し気になることを耳にしまして……」
エルトルーシオは城下町で体験したことと、雑貨屋の店主から聞きだした噂話について報告した。
「なんと!」
国王は驚きを隠せない様子で声を発した。
「しかし、これはあくまでも噂ということですので、鵜呑みにせず、ことの真相を確かめねばなりません」
エルトルーシオの言葉に、国王は「うむ」と返事をする。
「それから……」
エルトルーシオは治安が良いと思っていたこのトレニーヌ国で、国境を越えたときに襲われたことと、宿屋での一件を国王に伝え、この件について思いあたることはないかと問うた。
「そんなことが」
王子は驚いた様子で言う。
「我が国は平安な国だと思っておったが、そんなことが起きていたとは。サラセオールよ、何か聞いておるか?」
国王の問いに「いえ、何も」と答えた王子は、エルトルーシオ達に「そのことと妹の件に何か関係があるとお考えですか?」との質問を投げかけた。
エルトルーシオは大きく頷き、「はい」と返す。
それからエルトルーシオは自分がどのように感じ、考えているのかを伝えた。
それを聞いて国王と王子は深く大きなため息をつく。
「では、作戦を練るとしましょうか」
エルトルーシオの言葉に一同は大きく目を見開いた。
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