第17話 トレニーヌ国(2)
エルトルーシオと紫苑、アナスタリナと梨里香の4人はそれぞれ宿屋の部屋に入った。
今日は歩き疲れたとベッドに身体を投げ入れた梨里香。
アナスタリナは風呂の支度をしようと荷物を置いていた場所に目を向ける。
「あれ?」
そう発したアナスタリナは、荷物を置いていた場所の辺りを何やら捜し物をするようにウロウロしはじめた。
はじめは気にとめていなかった梨里香ではあるが、アナスタリナの様子に「どうしたの?」と声をかける。
「ここに置いておいた荷物がないのよ」
「ええっ!?」
驚いた梨里香はベッドから飛び降りて、アナスタリナの横に駆け寄る。
「アナ、ホントにここに置いたの? 別の場所に置いたんじゃ……」
「いいえ、間違いないわ」
アナスタリナの言葉を聞いて、梨里香は自分の荷物を確認した。
「あ、私の荷物もないわ!」
「エルたちに話しましょう」
アナスタリナと梨里香はエルトルーシオと紫苑にこのことを報告しようと、急いで部屋を出た。
すると同じように部屋から飛び出して来たエルトルーシオと紫苑。
彼らもまた、自分達の荷物が消えていると言うのだ。
4人は宿屋の女将に告げることにした。
「ああ、部屋を変えたから荷物は移動させたよ」
女将の言葉に「聞いてないわ」とアナスタリナが発すると、「急なことでね」と女将は悪びれもせずそう言う。
その態度に腹を立てたアナスタリナが、女将に詰め寄ろうと一歩前に出ると、エルトルーシオはアナスタリナの腕を掴み、「待て」と制した。
アナスタリナが「どうして」と言うと、「俺が話す」と女将に近づいた。
「他人の荷物を勝手に移動させるとはどういうことだ。しかも部屋を変えただと? 何も聞いていないが」
エルトルーシオは感情を抑え、淡々と述べる。
すると女将は「急いでいたから」と言う。
「他にも部屋はいくつか空いていたはずだ。なのに何故、わざわざ我々の部屋を移動させるのだ」
「少し大きめの部屋が必要だったんだよ」
「なら我々が戻るまで待つべきだ」
「だから急いでいたって言ってるじゃない。しつこいわね」
我慢して冷静に話していたエルトルーシオも、流石に女将のうるさそうにする態度に腹を立て、声を荒らげる。
「しつこいとは何事だ! 失礼なことをしておいて、問われればそんな態度で……」
エルトルーシオの頭から湯気が出そうなのを察したのか、アナスタリナが口をはさんだ。
「ま、兎に角、詳しい事情を聞きましょうか」
女将はそれから事の次第を説明した。
話によると、なんでもお忍びで誰かが来るらしい。
エルトルーシオ達が出かけてしばらくして、使いの者が少し大きめの部屋を用意するようにと伝えに来た。大きめの部屋は空いていないと言うと、空けるようにと詰め寄られて仕方なく……ということらしいが、エルトルーシオはひと言部屋の借主に言うべきだと強く言った。
「あたしもそう言ったんだけどね。すぐに部屋を用意していつでも入れるように清掃をしておくようにと言うんだよ。あんた達は出かけた所だったし、帰るまで待てなかったんだよ」
「事情は理解した。で、我々の新しい部屋はどこだ?」
エルトルーシオはもう荷物も運ばれてしまっているので、今更言っても仕方が無いと諦めてはいたが、どういうことか理由が知りたかったのだ。
女将は新しい部屋に4人を案内する。最初の部屋より狭く、窮屈ではあるが1日だけなので彼らは我慢することにした。
その日はそのまま休み、次の朝、宿を出るときエルトルーシオは、前払いしていた広い部屋と実際に使った部屋の料金の差額を返すよう、女将にかけ合おうと提案した。
すると女将は留守で、一度部屋を使ったから料金はそのままだと、なんとも欲深そうな店番が言う。
「しかし我々が最初に借りていた部屋は、誰も泊まった形跡はないが」
エルトルーシオが言うと店番は、自分は何も知らないとしらを切る。
4人はその態度に腹立たしく思ったが、今日は行かなければならないところがある。
言いたいことをグッと我慢し、エルトルーシオとアナスタリナ、紫苑、梨里香の4人は、トレニーヌ国のサラセオール王子に会いに行くために、宿を後にしたのであった。
少々の不満は残るが、4人は気持ちを切り替えて城を目指す。
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