第17話 トレニーヌ国(1)
この国――つまりトレニーヌ国で起きている複数の女性が失踪している件について、雑貨屋で店主の女性に話を聞いた後、梨里香、紫苑、エルトルーシオ、アナスタリナの4人は明日の城への出発を前に、少し情報を整理しようと宿屋に戻ることにした。
道中、梨里香と紫苑は、先ほどの店主のエルトルーシオに対する態度を思い出し、エルトルーシオをからかう。
そういうことに慣れていないエルトルーシオは、いつもの冷静な様子からは考えられないほど頬を真っ赤にし、「やめてくれ」と発し、1人スタスタと前を行った。
その様子を見てアナスタリナは大笑いをしている。
梨里香と紫苑はそんなエルトルーシオをここぞとばかりに追いかけて、尚も言う。
「あのお店の女性は絶対にエルトルーシオのこと、気に入ってたよねー」
そう発した紫苑をエルトルーシオはチラッと横目で睨みつけた。
「ねー、アナスタリナもそう思うでしょう?」
梨里香に聞かれアナスタリナも笑いながら「そうね」と答える。
いつものエルトルーシオは冷静で判断力があり、親友であるピュリアール王国のロサラル王といるときこそ、ごく一般の若者のようにリラックスしているが、普段は部下からの信頼も厚く落ち着いた態度であるため、梨里香と紫苑にとっては、エルトルーシオの新たな一面を垣間見たように思えて、もっと彼と仲良くなりたいと思ってのことだ。
しかしエルトルーシオは、慣れないことに困っている様子である。
「エルトルーシオはどんな女性がタイプなの?」
梨里香のイタズラっぽい上目づかいの問いに「知るかっ」と答え、一層足を速めた。
「わー、紅くなってる」
梨里香はその後ろ姿に揶揄うように発した。
「2人とも、もうそのぐらいにしてあげたら?」
ふふふと笑いながら言うアナスタリナに、梨里香と紫苑は「はーい」と返した。
それから4人はまた、楽しげに和気藹藹と宿屋への道を行くのだが……。
* * *
その頃、トレニーヌ国の王の間では、現国王とサラセオール王子がなにやら神妙な面持ちで話をしていた。
王女が行方不明になってからというもの、王妃が体調を崩し寝込んでいる。国王は王女のことは勿論心配ではあるが、王妃の塞ぎ込んだ様子が気がかりでならないのだ。
「サラセオール、その後進展は無いのか? 王女はまだ見つからぬか」
「はい。これといって有力な情報もないまま、日にちだけが過ぎていっております」
「そうか。引き続き捜索を頼む」
「はい。父上も少しは休まれた方がよろしいのでは? 最近働きづめですよ」
「わかっておる。しかしこの方がよいのだ。忙しくしている方が気が紛れるでな」
国王はそう言って机上に積まれた大量の書類に目を向ける。
心配した王子は国王である父に言う。
「では、わたくしもお手伝いいたします」
「なんと」
「いくら気が紛れるといっても、身体を壊しては元も子もありません。そうなれば母上も心配なさって身体にさわるかもしれませんよ。父上は一国の王なのですから、ご自分一人の身体ではないのです」
「そうだな」
国王はそう言うと少し微笑んだ。
「なんです?」
「我が息子もいっぱしの口をきくようになったと思ってな」
「申し訳ありません」
「いや、嬉しいのじゃよ。息子の成長が嬉しいのじゃ」
そう言って国王は嬉しそうに書類を手に取って、また仕事をはじめた。
「ピュリアール王国にも王女捜索の応援を頼んでいます。明日にも4名が入城すると伝えられています。早く見つけられるように、彼らと力を合わせ励みます」
「うむ」
* * *
エルトルーシオたち一行が宿屋に戻ったときは、既に夕刻であった。
4人は夕食がてら街を散策するつもりで出かけたが、結局外での食事はせずに、宿屋で済ませることにする。
そして1階の食堂で夕食を摂りながら、今日集めた情報を整理していった。
まずはじめに公園で男に連れて行かれそうになった女性の件から、市場で八百屋の主人から聞いた話。
そして雑貨屋の女性店主から得た情報。
雑貨屋の話になると、梨里香と紫苑の揶揄いも入り、多少の不機嫌さを滲ませたエルトルーシオではあるが、それでも2人が自分とそんな冗談を言い合うほど親しく接してくれるようになったことを、心の中では喜んでいた。
情報の整理も一通り終わり、食事も終了したので、エルトルーシオ、アナスタリナ、梨里香、紫苑の4人は明日の出発の準備をしようと、2階への階段を上る。
部屋は梨里香とアナスタリナ、紫苑とエルトルーシオが同室の2部屋。
2階の2部屋へそれぞれ入ったのだが……。
お読み下さりありがとうございました。
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