第16話 情報収集(3)
「このお店にはどのような方が買いに来られるのですか?」
梨里香の問いに店主は答える。
「市場の買い物を終えた方から貴族の方まで、それはもういろんな方々に喜んでいただいていますわ」
「そうなんですね! デザインがいいから、いろんな好みの方に受け入れられそうです」
梨里香の言葉に、かなり気を良くした店主は「ゆっくり見ていって下さいね」と告げた。
「そういえば、さっきの女の人、大丈夫かしら。怪我とかなければいいけど」
梨里香が店主に聞こえるような大きさの声で、アナスタリナに話しかけた。
主人は話しに聞き耳を立てている様子だ。
アナスタリナは一瞬驚いた顔を見せたが、梨里香のウインクで全てを察し、話を合わせる。
「そうねぇ。あんなこと、滅多にないわよね」
店主はもっと話を聞こうと、陳列されたアクセサリーを整える仕事をする素振りをしながら、それとなく梨里香とアナスタリナに2歩ほど近づいた。
梨里香とアナスタリナは背中にその気配を感じながら話を進める。
紫苑とエルトルーシオもふたりの意図を理解し、話に加わった。
「物騒だな」
エルトルーシオが言うと紫苑も続ける。
「女性の一人歩きは気をつけないといけませんね」
「ほんとほんと」
梨里香は言いながら、店主の方をチラッと見た。
この話に興味があるのは明白だ。ひょっとしたら何かを知っているのかもしれない。
そう感じた梨里香は続ける。
「あのまま連れて行かれていたらどうなっていたことか」
その言葉をきっかけに、アナスタリナは噂話が好きそうな店主の女性に話しかけた。
「最近、女性が忽然と消えちゃうって聞くんですが、どういうことなんでしょうね」
店主はドキリとした様子でアナスタリナを見たが、アナスタリナはその一瞬を見逃さなかった。
「まるで神隠しのようですよね」
アナスタリナの言葉に、もう黙っていられないと思ったのか、話し好きなのか店主は口を開く。
「ほんとよねぇ。この国は穏やかで、昔はそんなことなかったのに。最近はたまに物騒な話を聞くようになりましたわ」
「物騒な話ですか?」
梨里香が問う。
「まあ、ね」
「さっきも女性が男に腕を掴まれて、どこかに連れて行かれそうになっているのを見かけました」
紫苑が言うと、「やっぱり。それでその女の人はどうなったのですか?」と店主は訊ねた。
やはりこの国で起こっている女性の失踪事件に関して、この店主は何かを知っているようだと感じたアナスタリナは、エルトルーシオを指して、「彼が助けました」と微笑んだ。
「まあ! あなたお強いのね!」
店主は少し興奮気味で目を輝かせ、それまでよりも少し高めの声を発し、エルトルーシオに近づいた。
「いえ、それほどでも」
店主の声に少し驚いたエルトルーシオではあったが、落ち着いた様子で答える。
しかし店主はエルトルーシオを気に入ったようで、満面の笑みでもう一歩間を詰める。
それにはエルトルーシオも少し動じた様子で、上体を反らしながら一歩後ろへ下がった。
するとまた店主が一歩前へ出て、エルトルーシオがまた下がる、というようなことを数回繰り返すうちに、エルトルーシオは他の3人に助け船を求めるような顔で、アナスタリナ、紫苑、梨里香と順に顔を見る。
しかし3人は全く助ける様子はなく、それどころか笑みを浮かべながらエルトルーシオと店主のやり取りを楽しんでいるようだ。
エルトルーシオはそのうち、店主に「強い男性は頼りになるわよねぇ」「見た目も素敵だし」などと言い寄られ、困り顔で店主には気づかれないように口だけ動かして、「助けて」と眉をハの字にして3人に助けを求める。
それを見て、やれやれ仕方がないという素振りで、アナスタリナが口を開いた。
「あの、もしかして女性の失踪事件に関して、何か噂とか聞いていらっしゃる?」
すると店主はギクリとしてアナスタリナの方を向く。
「やはり知っていらっしゃるのね」
アナスタリナの言葉に、店主はしらを切ろうとしたのか、「いえ、私は……」と口ごもった。
そこですかさず梨里香がエルトルーシオに目配せをしながら言う。
「ね、聞きたいよね」
「あ、ああ。是非とも聞きたい」
エルトルーシオのその言葉を聞いた店主の女性は、ぱあと目を見開いて「彼が聞きたいっていうなら仕方ないわね」と発した。
ほっと胸をなで下ろす4人。
「実は……」
雑貨屋の店主は静かに語り出した。
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