第16話 情報収集(2)
公園で王女失踪事件と関連があるかもしれない情報を得た4人だが、まだ情報量が少なすぎるので、今度は公園のほど近くにある市場に行って探ってみることにした。
明日は城に向かって出発せねばならず、1箇所にそう時間をかけてはいられない。
たとえわずかな情報でも、王子への手土産にでもなればとの思いで、一行は市場へと向かった。
市場は公園と同じく人通りが多く、何かを目にしたひとがいるかもしれないし、先ほどの女性も市場で連れ去られそうになったと言っていたので、何か情報が得られるかもしれないと考えたからだ。
市場には数々の店が並び、活気に満ち溢れている。
「さて、どうする?」
アナスタリナの言葉にエルトルーシオは、闇雲に歩き回っても仕方が無いとの考えから、「まずは店で聞いてみよう」と答え、八百屋の方へ歩き出す。
他の3人も、後に続く。
ここは物腰が柔らかいアナスタリナの出番だ。
「あの」
「いらっしゃい。なんにしましょう。今が旬の野菜といえば……」
「いえ、お客さんじゃないんです」
アナスタリナの言葉に店の主人は少し眉を寄せる。
「ちょっとお聞きしたいことがあって」
アナスタリナは微笑みとともに言った。
すると彼女の美貌に釘付けになった主人は、にこやかな顔つきで「なんだい?」と答える。
「さっき、そこで女の人が見知らぬ男性に連れて行かれそうになったのを見たのですが、この辺りではそういうことはよくあることなんですか?」
いきなり本題に入った質問に、主人の顔は曇る。
「へえ、そんなことがあったんですか。知りませんでした」
「前にもそんなことがあったと聞きましたが、何か噂とかあります?」
「噂ねぇ」
八百屋の主人は少し困ったような素振りを見せたが、「どんな小さなことでも、聞いたことありません?」とアナスタリナに上目づかいで質問され、観念したというように言葉を発した。
「噂というほどではないけど、以前にもそんなことがあったとは聞いたことがある」
「そうなんですね! 詳しく教えてもらえませんか?」
八百屋の主人は、あまり詳しくは知らないが、と前置きをして話し出す。
「数ヶ月前から、若い女の人が忽然と姿を消したという話をたまに聞くようになった。ただ、それと関係があるかは知らないが」
そこまで話して、八百屋の主人は辺りを気にするようにキョロキョロと見回し、小声で続ける。
「なんでも、身なりのいい、貴族の令嬢のような人まで消えたっていうじゃないか。そんな身分の人なら護衛とかつくだろうし。もし連れ去られたんだとしたら、ちょっと不自然だよな」
なるほど。護衛が手引きをしたのなら話は解るが、連れ去られたのならその方法が気になる。
それとも、自分から身を隠したのか。そんなことを考えながら、エルトルーシオは話を聞いていた。
「あ、いらっしゃい。悪いけど、お客さんがきたんで失礼するよ」
主人はそう言って、やって来た客の方へと行ってしまった。
それからしばらく市場の通りを歩き、それとなく話を聞いてみるが、思うような情報を得ることはできなかった。
そろそろ宿に帰る時間だと、エルトルーシオは皆に告げ、来た道とは違う道で宿に向かう。
4人は少し歩き、一件のレンガ造りの建物を見つけた。
市場からは少し離れてはいるが、店の前の通りは行き交う人で賑わっている。
エルトルーシオは雑貨屋の扉を開けた。
カランカランと扉につけてあるベルが音を立てる。
「いらっしゃいませ」
中からは上品な身のこなしでひとりの女性が現れた。
「こんにちは。素敵なお店ですね」
アナスタリナは、まずお店を褒めるところからはじめることにした。
「ありがとうございます」
「ここに置いてあるアクセサリーは手作りですか?」
梨里香はキラキラと光る可愛いネックレスやブレスレットが飾ってある場所を指さし、聞いてみた。
店主の女性は、嬉しかったのか瞳をキラキラと輝かせ、「わかりますか?」と答える。
「ええ。とっても素敵です」
両手を胸の前で組み、梨里香は少し大袈裟に感動を身体で表している様子を見せる。それを見てアナスタリナも続ける。
「本当にセンスが良くって、ずっと見入ってしまいます」
アナスタリナの一押しで、雑貨屋の店主の女性は、満面の笑みを溢した。
梨里香はもう一押しだと感じ、話を続ける。
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