第16話 情報収集(1)
城下町の中央にある公園を散策していた梨里香と紫苑、それにエルトルーシオとアナスタリナの4人であるが、これと言って役立ちそうな情報を得ぬまま、公園の中央部にさしかかったときだった。
4人は若い女性が男に手首を掴まれ、どこかに引っ張られていく姿を目にする。
女性は嫌がる様子で、無理に連れられていることは一目瞭然である。
エルトルーシオとアナスタリナは顔を見合わせうなずいた。
エルトルーシオが男に近づき、背後から声をかける。
梨里香と紫苑、アナスタリナは息を呑んで様子をうかがう。
「どこへ行く」
男は女性の手首を掴んだまま振り返った。
「どこへ行こうとお前には関係ない」
そう言うと男はまた歩み始める。
「その女性は嫌がっているようだが?」
男はエルトルーシオの言葉を無視して歩き続けた。
女性は手首を引っ張られるかたちで男の後を歩むが、振り返りエルトルーシオに助けを求めるような表情を浮かべる。
それを見てエルトルーシオは男の前まで行き、行く手を阻むように立ちはだかった。
「どけ」
男の言葉にもエルトルーシオは道を譲らない。
「どけと言ってるんだ!」
声を荒らげる男にエルトルーシオは言った。
「彼女の手を離せば道を譲るよ」
「なんだとぉ」
男は女性の手を離し、エルトルーシオに殴りかかっていく。
エルトルーシオは素早く身をひるがえし、避ける。
相手がかわしたことでバランスを崩した男は、近くにあった噴水のへりによろよろと倒れかけるようにつかまった。
その間に女性はアナスタリナ達のところに逃れており、それを見た男は去り際に「チッ」と舌打ちをし、その場から走り去って行った。
「大丈夫?」
アナスタリナの言葉に女性は「はい。ありがとうございます」と返事をする。
梨里香と紫苑はその後ろから様子を見守っていた。
「どういう経緯であのようなことになったのか、聞かせてくれませんか?」
エルトルーシオが言うと、女性は語り出した。
彼女の話では、買い物をしようと市場を歩いていると、苦しそうに胸をおさえ倒れている男を見つけ心配で声をかけた。すると男は顔を上げ、一人では歩けないから家まで連れて行ってくれと頼まれたという。
女性は気の毒に思い、立ち上がるのに手を貸して少し歩いたところで、急に男に手首を掴まれた。抵抗すると殴ると脅されて、ここまで無理矢理連れてこられたとのことだ。
どこに連れて行かれるのか不安だったときに助けてもらって、感謝していると述べた。
「ひとの厚意を利用するなんて許せないわね」
アナスタリナは腹立たしそうに言う。
エルトルーシオは、この辺りで今までにも女性が連れ去られたというようなことはなかったかと聞いてみる。
王女の失踪と関係があるのか気になったからだ。
「さあ……」
女性はアゴに手をあてて考える素振りをみせるが、何かを思い出したように話し出した。
「そういえば、最近、女性が忽然と姿を消すという噂は聞いたことがあります。ひとりで出かけたまま帰ってこないので、心配した家族が探し回ったけれど、見つからないと聞きました。まさか今回のことと何か関係があるのでしょうか?」
女性の言葉にエルトルーシオは「まだ解らないが、無関係とも言い切れない」と苦い顔をする。
「その女性が姿を消したというのは、いつ頃のことなの?」
アナスタリナの問いに、「確かひと月ほど前のことだったと思います」と女性は答えた。
それ以外にもそのような出来事はなかったかとエルトルーシオが女性に聞くと、女性は少し考え、他にも女性ばかりが行方不明になるということが数件あったと近所のひとに聞いたことがある、と思い出したように語った。
「自分で家出をしたものか、連れ去られたのかも解らないな」
「その女性達はそのまま帰ってきていない、ということなのですね?」
「はい。そのようです」
「なら、気になるわね」
アナスタリナとエルトルーシオは眉間にシワを寄せる。
お読み下さりありがとうございました。
次話「第16話 情報収集(2)」もよろしくお願いします!




