第16話 目的
エルトルーシオの華麗な剣捌きに圧倒され、アナスタリナの優美な身のこなしに見とれていた梨里香と紫苑。
自分たちも稽古の成果を発揮したくて、なんとか彼らの助けになろうとは思うものの、身体が動かなかった。
やはり稽古と実際の戦いとではまるで違う。
迫力のある稽古でも、相手が傷ついたり倒れたりするまでは続けないし、実力に合ったやり方で行う。
しかし実際の戦いでは、敵がどのような状況でどのような手段で攻めてくるかは解らない。
一瞬の判断ミスが致命傷にもなりかねない。
経験のない自分たちが下手に手を出して、エルトルーシオとアナスタリナの足手まといになっては申し訳ない。
梨里香と紫苑はそんなことが頭に過る。
ふたりは鬼気迫る草原で剣に手は置いたものの、それを鞘から引き出すことができなかった。
大勢を相手にエルトルーシオとアナスタリナが戦っているというのに、そこは普通の高校生。恐怖心が先にでてしまい、前に出ることができなかったのだ。
梨里香と紫苑は自分達のふがいなさに唇を噛んだ。
一方、エルトルーシオとアナスタリナは少し余裕があるように見える。
かかってきた相手を上手くかわしながら間合いを取り、エルトルーシオは問う。
「何が目的だ」
「真新しい服装に装備」
「くっ。盗賊か」
ふたりのやり取りを聞いて、アナスタリナは小声でエルトルーシオに話しかけた。
「おかしいわね。トレニーヌ国は治安が良い国だと」
「ああ。盗賊がうろついてるとは聞いたことがないな。嫌な予感がする」
その後もエルトルーシオとアナスタリナは、梨里香と紫苑を護りつつも、相手に怪我をさせない程度に攻撃をかわしていた。
戦いに慣れていないのか、エルトルーシオとアナスタリナが相手には強すぎたのか、力任せに攻撃を加えてくる盗賊達は、ものの数分で息を切らせた。
エルトルーシオは、疲れて腰を落としていたリーダー格の男の側に行き問う。
「誰の差し金だ」
だが男はそっぽを向いて答えない。
エルトルーシオは男の胸ぐらを掴んで、「言え!」と今度は強く放った。
男は怯えながらも口を開かない。エルトルーシオは胸ぐらを強く引っ張り、言えと睨みつける。
「そ、そんなにキツく引っ張られると言えねえよ」
弱腰になった男に、エルトルーシオは掴んだ胸ぐらから手を離した。
解放された男は、そのままの状態で後ずさりをする。
「さあ、手を離したぞ」
エルトルーシオの言葉にニヤリとした男は、踵を返し一目散に逃げて行った。
それを見た他の者達も大慌てでその場から逃げ出した。
アナスタリナが「待て!」と後を追おうとしたが、エルトルーシオは止める。
「深追いはするな。放っておけば、また向こうからやって来るさ」
「そうね。周りに注意しながら進みましょう」
4人はまた馬にまたがり城を目指して歩み始めた。
その後誰かに襲われるということもなく順調に旅は進んだが、はじめに話していたように、城に向かう前に城下町でひと息つくことにした4人。
といっても、何もただ休憩をするためではない。王女の失踪について何か役立つ情報を少しでも集めようということだ。
そろそろ夕方になるということもあり、一行はまず止まる場所を探すことにした。
城下町に入ってすぐの所に『案内』と看板に書かれた建物がある。
エルトルーシオはそこで宿屋の情報を得た。
ついでに王女についてそれとなく聞いてみたが、特に情報を得ることはできなかった。
そんなに簡単に情報が得られるなら、サラセオール王子がとっくに見つけていることだろう。
焦らず、じっくりと探していこうとエルトルーシオは考えていた。
宿屋に着いて荷物を部屋に置き、4人は夕食がてら街を散策することにした。
部屋は梨里香とアナスタリナ、紫苑とエルトルーシオが同室の2部屋。
2階の2部屋でそれぞれ寛いだあと、4人は街の中央にある公園に向かった。
そこである光景を目にする。
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