第15話 残されたふたり
梨里香と紫苑が滞在しているピュリアール王国に助けを求めてやって来た、トレニーヌ国のサラセオール王子の力になるべく、エルトルーシオとアナスタリナが旅立って1週間。
梨里香と紫苑は練習場で訓練を受けている。
その後どのように進展しているのかは、梨里香と紫苑のあずかり知らぬことではあったが、ロサラル王はエルトルーシオとアナスタリナに任せておけば、隣国の困りごと――つまり貿易、北の国との国境諍いについては問題なく解決できると踏んでいた。
あれから毎日、梨里香と紫苑は午前中はこの世界のあれやこれやについての勉強をし、午後からは城や近隣の散策、夕方からは練習場で訓練と忙しい日々を過ごしていた。
いろいろと考える時間もないほどにスケジュールを詰め込まれ、1日が終わればクタクタになってベッドに潜り込み疲れを癒やす。
そんな中でふたりにとっての小さな楽しみは、美味しい食事であった。
この世界は、梨里香と紫苑が住んでいる世界とは異なることが多いが、自然や食事は彼らの世界と何も変わらないということがふたりには救いである。
それには梨里香と紫苑の住む世界と、この世界との繋がりを感じざるを得ない。
しかし、それがどのような繋がりであるのか、今はまだ掴めずにいる。
答えを知っている者がいるのか、それともいないのか。
これからふたりがそれを探していくのか、いかないのか。
梨里香と紫苑にもまだ解らぬことである。
エルトルーシオとアナスタリナがいつ帰ってくるのか、あとどのくらい今の生活が続くのかは解らなかったが、それでも梨里香と紫苑は心細い気持ちをしまい込んで、健気に過ごしている。
あの日、梨里香と紫苑はロサラル王から、エルトルーシオとアナスタリナが留守の間、騎士達の剣の練習風景を見学してみないかと提案され、好奇心旺盛なふたりは、二つ返事で提案を受け入れた。
次の日、剣の練習を見学するために国王とともに練習場に赴いた梨里香と紫苑だが、熱の入った訓練に圧倒されつつも、熱心に見入っていた。
迫力満点の騎士の競り合いは、ふたりを釘付けにしていた。
そこで剣を持ってみるかと言われるままに、ファンタジー気分を味わいたくて喜んで握ってみた剣は、梨里香と紫苑が思っていたよりも重く、扱いが難しそうに感じた。
しかし騎士達の華麗な剣捌きに、少し憧れる気持ちも芽生えたのは確かである。
そのふたりの目の輝きを見逃さなかった国王はすかさず、「練習に参加して護身術と剣の訓練をしてみないか」と持ちかける。
エルトルーシオとアナスタリナがふたりを護ると言っていたが、状況が変わったため、ふたりが帰るまでは他の者が護ることになっている。とはいえ、もしもの時に自分たちでもかわせるようにと護身術を、その延長でなにかの時に戦えるようにと剣の訓練をしてみてはどうか、とのことであった。
その訓練になんの意味があるのかと疑問に思いながらも、他にすることもないので、暇つぶしを兼ねたほんの軽い気持ちで。梨里香と紫苑はファンタジーの世界で剣士になったような気持ちを味わいたくて。国王の提案を受け入れたのがはじまりだった。
それからまた日にちが過ぎ、クタクタになっていた訓練にも慣れてきて、だんだんと楽しさを憶えるようになっていく。
するとふたりはめきめきと上達し、周りを驚かせた。
驚いたのは周りだけではない。当の梨里香と紫苑もこんなに上手く剣が扱えるものかと驚きを隠せない。
映画やアニメで見たことはあっても、頭の中で軽やかな剣捌きを思い描いていたとしても、実際に剣を振るのとでは雲泥の差がある。
それなのに、ふたりはまるで以前から剣の扱いに慣れている者のような、華麗な動きを見せていた。
しかしそれはあくまでも練習上でのことであり、梨里香と紫苑に実戦経験はない。するつもりもない。
ほんの好奇心からお稽古事のような感覚で挑んでいただけのこと。
周りに褒められ、少しばかり気分が高揚していただけのこと。
日数を重ね、梨里香と紫苑は次第に城にも、この国にも、剣術にも慣れ、そのうちひとりでも迷うことなく出歩けるようになる。
そんなある日のことだった。
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