第15話 隣国の困りごと
ピュリアール王国より西に位置する小さな国、トレニーヌ国の王子、サラセオールは自国の困りごとについて端的に述べた。
まず、最近貿易が思うように進まないということ。
それは今まで何の問題もなく良好な関係を保っていた国が、いきなり打ち切りたいと伝えてきたということである。理由を聞いても言葉を濁すばかりで、ただ「申し訳ない」とその一点張り。
話は平行線のまま、数ヶ月が経ってしまっているということだ。
サラセオール王子は一方的な要請に納得がいかず、もう一度貿易を再開したい。もしダメでも今後の参考に理由が聞きたいと言う。
次に、王女である妹が、ある日城から忽然と姿を消してしまったということだ。
王女は明るく活発な女性で、悩んでいる様子もなく、家出をしたとは考えにくい。国中を探したが見つからないという。
そして北の国との国境諍い。
北の国というのは、ハサギール帝国の一部の小さな国であるが、昔から守られている国境線を少しずつ越えて、侵入している気配があるということだ。
それをトレニーヌ国が牽制すると、自国の国境内だと言い張る始末。
少しずつ領土を広げようとしているのか、その意向が計り知れなく対処に困っているとのことであった。
一通り話し終えたサラセオール王子は、すがるような目でロサラル王に訴えた。
「ロサラル王、お願いでございます。この小国にお力をお貸し下さい」
最近、近隣で不穏な動きが報告されていたが、隣国でまたこのようなことが起こるとは、とロサラル王は眉間にシワを寄せる。
隣国の困難に力を貸したいと思う国王であったが、どのように解決すべきか考える時間がほしいと話した。
それに対し王子は、手間を取らせて申し訳ないと詫びると同時に、感謝の意を伝えた。
ロサラル王はエルトルーシオとアナスタリナを呼び、何やら3人で相談をしている様子である。
梨里香と紫苑は、大変なことが起こっているのだとサラセオール王子の心情を思いやった。
何か力になれることはないかと思ったふたりではあったが、今の自分たちでは何の役にも立たないことはふたりとも承知している。
梨里香と紫苑は、悔しさを滲ませた。
しばらくしてロサラル王は、サラセオール王子に告げる。
貿易の交渉については、アナスタリナが港街で培った経験を元に、相手先に出向いて話をしてみるということ。
そしてハサギール帝国の一部の小さな国との国境の諍いについては、エルトルーシオがハサギール帝国に出向いてアデルート皇帝に会い、協力を仰いでみるということだ。
ここピュリアール王国と北にあるハサギール王国とは特に親交が厚く、互いに助け合いながら、ともに発展していった仲である。そのハサギール帝国の一部の小さな国とのいざこざならば、力になってくれるのではないかと考えたからだ。
「しかし、王女のことについては情報がなさすぎる。力になりたいのはやまやまだが」
国王はすまなさそうに伝えた。
「お心づかい痛み入ります。妹のことはもう少し情報を集めてみたいと思います。他のことに関してはありがたく、なんとお礼を申し上げてよいやら、感謝の言葉もございません」
サラセオール王子は、ロサラル王の厚意に深く感謝した。
「では早速、エルトルーシオとアナスタリナは準備を整えて、明日にでも出発してもらおう。それでよいな」
国王の言葉にエルトルーシオとアナスタリナは「承知しました」と頭を下げる。
梨里香と紫苑は、エルトルーシオとアナスタリナがともに城からいなくなると聞いて、急に不安な気持ちになった。
「あ、えーと。俺とリリィはエルトルーシオとアナスタリナが留守の間、どうしたらいいんですか?」
紫苑は素朴な疑問を伝えた。
彼がそう考えるのはもっともで、これからこの城で、城のこと、国のこと、この世界のことについて学んでいこうとした矢先のことである。
エルトルーシオとアナスタリナとは、しばらく一緒に過ごしてきたので気心も知れているし、この城でも傍にいてくれるということで安心していた。それが明日から梨里香と紫苑はふたり残されてしまう。
そう考えると、ロサラル王は良い人そうではあるが、まだ完全に打ち解けたということではないため、いささか心配になるふたりである。
「おお、そうであったな。もちろんふたりのことは考えておる」
国王のその言葉に、不安が過る梨里香と紫苑であった。
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