第15話 隣国の青年
梨里香と紫苑のお披露目会も兼ねたパーティーが始まろうとしたその時に、国王の前に現れた男。
無謀と思われる行動の割に、その男は貴族風の身なりで礼儀正しく、無茶をするような人物には見えない。
そんな彼がロサラル王に直訴するために隣国からやって来たというのだ。
何かよほどの理由があるのかと、国王は、力を貸してほしいというその男の話を聞いてみることにした。
「恐れ入ります。しかしこのような公の場でお話できるような内容ではございません。図々しい申し出かとは思いますが、できれば少人数でお話をさせていただきたいのでございます」
これからパーティーが始まるという時に、そのような申し出をされて国王はどうしたものかと、左手をアゴに当てて少し考える素振りを見せた。
「うむ。では後ほど聞くとしよう。少し待たせるがよいか? 皆に挨拶をせねば」
「もちろんでございます」
国王は一段高いところから皆に挨拶をすませて、あとは寛ぐようにと告げる。
それから梨里香と紫苑のところにやって来て、今日のお披露目はなしにすると伝えた。
それを聞いた梨里香と紫苑は、大勢の前で挨拶をしなくてもよいと、内心ホッとする。
しかしその後の国王の言葉にふたりは驚きを隠せない。
「ふたりとも、少し料理でも食べて雰囲気に慣れてからでよいので、エルとアナとともに王の間に来てくれ。先ほどの青年の話を一緒に聞いてほしいのだ」
「え、でも。俺たちは彼の助けになるようなことはできませんよ」
紫苑の言うことはもっともだ。この世界のこともまだ完全に把握しているわけではないのに、青年の困りごとを解決するような考えが浮かぶとも思えないと梨里香は大きくうなずいた。
「いや、王族として、ただ話を聞いてくれるだけでいい」
ロサラル王の言葉に梨里香と紫苑は、エルトルーシオとアナスタリナの顔を交互に見ながら助け船を求めるが、ふたりは微笑みながら大丈夫と首を縦に振るのみ。
梨里香と紫苑は、ただ話を聞くだけならと渋々承知した。
その後はふたりとも、色とりどりで豪華な料理に目移りしながらも、しっかりと取り皿に盛り付け、美味しそうにそのパーティー料理を堪能した。
もうそろそろ時間だとエルトルーシオに告げられて、梨里香と紫苑は王の間に向かう。
エルトルーシオを先頭に、紫苑、梨里香、アナスタリナと続いて王の間に入ると、既にロサラル王は腰かけていた。
「おお、待っておったぞ。さ、そこに座りなさい」
国王に促されて、4人は用意されていた椅子に腰かけた。
と、先ほどの青年が衛兵に連れられてやって来て、扉に近い位置で緊張の面持ちで直立している。
「では、話を聞こうか」
国王の言葉に、青年はその場で片膝を立ててひざまずくような姿勢で頭を下げ、声を発した。
「ロサラル王、まずはじめに、先ほどの無礼をお許し下さい。そしてお時間をいただきましたことに感謝いたします。わたくしはこのピュリアール王国より西にございます小さな国、トレニーヌ国の王子、サラセオールにございます」
青年が一国の王子と聞いて、その場にいた者たちはたいそう驚いた。
王子ならば正式な申し出をすれば、国王との対面もスムーズにいくだろうに、なぜ敢えてこのような危険な方法でロサラル王に近づいたのか。
ロサラル王はもう少し話を聞いてみることにした。
わざわざ貴族風の身なりにしているのは、他の者に王子と悟られたくはなかったという理由からであるが、あまりの平服ではこのパーティーの会場にそぐわないと考えたからだと、サラセオール王子は少しずつ話し出した。
サラセオール王子の話によれば、最近困りごとが多く発生し、今まで自力でなんとか乗り越えようとしていたが、事態は一向に良い方向には向かず途方に暮れていた。そこで父親である国王と話し合って、このマスナルヨシ地方きっての大国であるピュリアール王国の国王であり、人望も厚いロサラル王に相談しようということになったという。
「その困りごとというのは?」
国王の言葉にサラセオール王子は続けた。
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