第15話 パーティーの前に
次の日、梨里香は扉を叩く大きな音で目覚めた。
寝ぼけ眼をこすりながら返事をする梨里香。
窓からさす光が朝を告げている。
ふかふかのベッドは寝心地が良く、旅の疲れも残ることない、良い目覚めのようである。
扉を開けて入ってきたのはアナスタリナであった。
朝の挨拶を軽く済ませ、梨里香に身支度をするように促す。
梨里香はあくびをしつつも身支度を整え、差し出された服を手に取る。
少し丈の長いスカートかと思いきや、簡易なドレスのようだが身につけ方が解らず、アナスタリナに手伝ってもらい、なんとか着替えることができた。
梨里香が身支度を整え、アナスタリナとともに前室への扉を開けると、もう用意を終えた紫苑とエルトルーシオが待ち構えるように椅子から立ち上がった。
「お、おまたせ」
梨里香は着慣れないドレス姿で、少し恥ずかしそうに挨拶をする。
紫苑も王族らしい立派な出で立ちで、まるでどこかの国の王子のようだ。
もともと梨里香は黒く長い髪に黒い瞳、紫苑は濃いブラウンの髪に濃いブラウンの瞳をしているが、それぞれに合った衣装が用意されていていた。
髪をハーフアップにした梨里香の衣装は柔らかなピンク色で、少女の初々しさが感じられ、好感の持てるドレスである。
一方、爽やかに後ろに流した髪が印象的な紫苑の衣装は、オフホワイトでタキシード風のデザインであった。
紫苑もいつもとは違う衣装に、着こなしているというよりは着られていると言う方がしっくりくるようであるが、それでもとても似合っている。
ふたりは互いを見て、それぞれに褒め合った。
それでリラックスできたようで、いよいよ前室の扉を開けて、パーティーが催される会場へと向かう。
長い廊下を歩き、いくつかの角を曲がるとひとの行き交う姿が見受けられた。
会場はもう近い。
エルトルーシオは立ち止まり、梨里香と紫苑に念を押した。
「会場に入ると、皆が注目するだろう。緊張すると思うが堂々としていればいい。解らないことがあれば俺かアナに聞くといい」
梨里香と紫苑がうなずくと、エルトルーシオは会場へと入っていった。その後に紫苑、梨里香、アナスタリナが続く。
4人の入場に周囲は一瞬にして注目した。
そこへ大臣がいそいそと近づいてくる。
しかしエルトルーシオは大臣を一瞥し、そのまま歩き続けた。
その後ろ姿に大臣が声をかけようとしたその時だった。
パーティーの進行役が注目せよと言わんばかりに、少し大きめのハンドベルを鳴らし、会場は一斉に静寂に包まれる。
進行役が「まもなく国王がお見えになるので、そのまま静かにお待ち下さい」と告げると、皆は扉から奥に向けて中央に敷かれた紅い絨毯をはさむように整列した。
しばらくして国王が入り口に現れる。ロサラル王は会場の絨毯の上をゆっくりと歩き、一段高い場所に向かうその後ろ姿に皆が注目する。
国王が絨毯を歩き終え、段差に足をかけた時だった。
人をかき分け、国王の方へ、ひとりなにやら叫びながら近づく者がいた。
その男は控えていた衛兵に取り押さえられたが、まだ何かを必死で訴えかける様子に、危害を加えることもなかろうと、国王は男に近づいて行く。
周りの者は止めようとしたが国王は軽く右手を挙げて、心配ないと留まらせた。
ロサラル王は幼少の頃より武闘・剣術を一流の使い手より学んでおり、多少のことなら自分でも回避できると考えたからだろう。
エルトルーシオは細心の注意を払いながらも、その様子を見守ることにした。
その男の身なりは立派なもので、どこかの国の貴族のようにも見える。
しかし国王の挨拶も待たずに無礼な振る舞いをしたことにより、少し警戒した方が良いと判断したからだ。
国王は男の前で立ち止まった。
「わたしになにか言いたいことがあるのかな?」
優しく微笑む国王に、男は驚きながらも口を開く。
「ロサラル王、このような晴れやかな場所でのご無礼をお詫び致します。そして、わたくしの話を聞こうとして下さったことに感謝致します」
「少々無茶をしたな」
「申し訳ございません。こうでもしないと、わたくしは国王にお目通りできないと思いましたので」
「して、話とは」
「はい。実は国王のお力を貸していただきたく、こうしてお願いに上がりました」
「わたしの力が必要だと? 詳しく話してみよ」
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