第15話 ふたりの待遇
エルトルーシオ、アナスタリナ、梨里香、紫苑の4人は、王の間を出て長い廊下を歩き出した。
先頭にはエルトルーシオ、その後に梨里香と紫苑が並んで歩き、最後にアナスタリナがついて行く。
エルトルーシオが執事、アナスタリナが世話係ということは、あくまでも建前上のことであり、気にする必要はないとのことだが、梨里香と紫苑には気になるのは仕方がない。
近くに第三者がいるときは、その建前上の関係を貫いてほしい。だが、周りに誰もいなければいつも通り普通に接して良いとのことである。
この城の中ではエルトルーシオは執事という名目、アナスタリナは世話係という名目で梨里香と紫苑の傍にいることになる。ほかの人の手前そうしていれば、怪しまれずにずっと一緒にいられる。
そこが国王の狙いということである。
そうして少しずつこの城にも、国にも慣れていくことでこの世界への愛着が湧き、いざというときの心構えが備わってゆくかもしれないと考えたからだ。
それには多少の時間はかかる。
国王にはそこも含めての計算だろう。
装飾の施された長い廊下を少し歩いて、ある部屋の扉の前で、エルトルーシオは歩みを止めた。
「ここがふたりの部屋だ」
「え」
ひとつの扉の前で、ここがふたりの部屋だといわれてもどういうことか理解ができない様子の梨里香と紫苑であった。
いくら仲が良くても、高校生の男女が同じ部屋で過ごすとは考えがたい。
近くにいた方が心強いだろうが、お互いのプライバシーも尊重したいと思うのが道理だ。
「中で二つの部屋に別れている」
エルトルーシオの言葉にホッと胸をなで下ろすふたりであった。
そうこうしているうちに扉の鍵が開く音が聞こえ、エルトルーシオにより扉が開かれた。
彼の言うとおり、その扉の中には現実世界で言うところのホールのようなスペースがあり、その向こうの正面に扉がふたつ。そしてその扉の左右には、それぞれ正面の扉より少し小さめの扉があった。
「ここがリリィとシオンの部屋よ」
アナスタリナが指し示したのは、正面に見える立派なふたつの扉であった。
「どちらの部屋を使うかは、ふたりで話し合って決めるといい」
エルトルーシオにそう言われて梨里香と紫苑は、まず左の部屋を、次に右の部屋を見て回った。
どちらの部屋もとても広く、豪華な家具が並べられている。
今はこのようなレイアウトだが、使いやすいように自分で変更してもいいし、足りないもの、欲しいものがあれば遠慮なく言うようにと告げられて、話し合いの結果、向かって右の部屋が梨里香、左の部屋が紫苑ということに決まった。
エルトルーシオとアナスタリナも、それぞれ梨里香と紫苑の隣の小さな扉の部屋が自分たちの部屋になるという。
廊下の扉とみんなの部屋の間にあるホールのようなスペースは、前室というかたちで、エルトルーシオとアナスタリナのどちらかが控えている部屋ということだ。
用のある者は、この前室でエルトルーシオ、若しくはアナスタリナを通さねば、梨里香と紫苑の部屋に出入りすることはできない。
王族ということで、このような部屋をあてがわれたのである。
仰々しいと思いながらも、梨里香と紫苑はおとなしく説明を受けていた。
一通りの話が終わり、それぞれの部屋に入ろうとしたときに、エルトルーシオが思い出したように口を開いた。
「あ、そうそう。今日はここでゆっくりしているといいが、明日はリリィとシオンのお披露目会があるから」
「お披露目会?」
目を丸くして紫苑が聞くと、エルトルーシオは笑いながら答えた。
「明日は以前から要人を迎えてのちょっとしたパーティーが開催される予定だったんだ。ロサがせっかくだから、リリィとシオンをその場で皆に紹介するって言ってた」
「そんな、紹介って。私たちパーティーのマナーなんて知らないし、困るわ」
梨里香の言葉に紫苑がつけ加える。
「それに俺たちをそんなに大々的に紹介するメリットが解んないよ」
「そんなの簡単よ。あなたたちの待遇に誰からも文句が出ないように先手を打つのよ」
「まあ、そんな大規模な催しじゃないから、気楽に参加すればいいよ」
ふたりにそう言われて、むりやり納得したカタチとなった梨里香と紫苑ではあるが、エルトルーシオとアナスタリナが傍にいてくれるということだし、パーティーといっても立食形式の軽めのものだし、少し顔を出してよろしくと挨拶をするだけでいいとのことで、少し安心した様子ではある。
それから梨里香と紫苑はそれぞれの部屋に入り、旅の疲れを癒やすべく寛ぐことにした。
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