第14話 『再来と希望の書』
しばらくして、ロサラル王は大きな本を抱えて王の間へと帰ってきた。
ピュリアール王国に代々伝わる王国秘伝の、大きく分厚い書物である。
梨里香と紫苑、それにエルトルーシオとアナスタリナの4人は、ゆっくりと近づく国王に目をやる。
ロサラル王は先ほどまで腰かけていた場所に座り、机の上にその書物を大事そうに置いた。
「待たせたな」
「いえ」
国王の言葉に紫苑は短く答え、他の者は軽く会釈をする。
「先ほどのシオンの疑問点について答えるには、まずこの国に長きにおいて伝わるこの書物の存在を明かさねばなるまい」
そう言いながら国王は、その書物にそっと触れる。
梨里香と紫苑は古雅な装飾を施された、いかにも古くから王家に伝わる秘蔵の書とでも言うべき書物の表紙に見入っていた。
梨里香と紫苑はその重厚な書物を目にして、少々興奮気味である。
ロサラル王は、まずこの書物について話し出した。
「この書はピュリアール王国で代々の国王に受け継がれてきた、『再来と希望の書』というものである。本来この書物は、王族しか閲覧を許されていない。しかし王に特別に許された者はこの限りではない」
国王の言葉に紫苑は驚き言う。
「え、そんな大切な書物の存在を俺たちに話しちゃってもいいんですか?」
紫苑がそう思うのも無理はない。
国王は、ゆっくりうなずいた。
「この書物の存在は、王族とここにいるエルトルーシオとアナスタリナ、あと数名の家臣のみが知っている。しかし内容については、この城ではエルとアナにしか話していない」
国王は続ける。
「それを何故リリィとシオンに話すのか、ということが気になるようだな」
「はい」
梨里香と紫苑は答える。
ロサラル王は『再来と希望の書』の表紙に手をかけ、そっと開いた。
梨里香と紫苑は中を覗き込む。
しかしそこに書かれている文字は、紫苑たちが普段使っているものとは違い、全く読むことはできなかった。
国王は書物について語り出した。
その書物にはこの国の歴史や成り立ちが記されている。
今までに起こったことが、その時代の王の手によって記されているのだ。
幾度となく訪れたこの国の困難。しかしそれを乗り越える手立てがある。
そして繰り返される試練は続くと。
その試練は身内の裏切りにより生まれ、汚れなきこころを持つ者の力により乗り越えられると。
書物の最後には、困難が訪れたとき、どのようにすれば良いのかという指南までが記載されている。
従って、この分厚い歴史書は、国にとって重要な書物であり、門外不出である。
基本、王族しか閲覧を許されていない。しかし王に特別に許された者はこの限りではない。
まだ不確かな情報ではあるが、最近のよからぬ噂はロサラル王の耳にも入っている。
それがこの書物に記されている試練に繋がることとなるのかは定かではないが、ロサラル王は一抹の不安を抱いていた。
王の杞憂であればよいのだが、もしもの時に備えておくべきだと王は考えている。
もしもそれが杞憂ではなく現実のこととなる場合には、必ず助けになる者が現れるであろう。
その聖なる者、そして勇気ある者達の訪れが近いことを、ロサラル王は感じていたのだ。
そこに希望を以て、これから訪れるであろう困難に打ち勝つべく、こころを強く保つ必要があることをロサラル王はつけ加えた。
「その聖なる者と勇気ある者って……」
「察しがいいな、シオン。君たちだよ」
「えー。そんな、私はただの平凡な女子高生ですよ!」
「俺だってただのファンタジー好きな高校生ですよ」
梨里香と紫苑が戸惑うのも無理はない。
「いや。間違いない。やっと見つけたんだ。我らの希望の光を。未来へと導く者たちを」
ピュリアール王国のロサラル王は、その書物『再来と希望の書』から目線を上げ、力強く遠くの一点を見つめ呟いた。
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