第14話 疑問
驚きながらも、梨里香は“リリィ”と呼ばれることを受け入れた。
なぜなら、ロサラル王の「これは話せば長くなるが、君たちがここに来たことと関係があるからだ」と言う言葉を聞いたからだ。
梨里香は以前、お気に入りのファンタジー小説『Meet You Again』の不思議な現象を確認したくて、次のページへと指を滑らせようとしたそのときに、突然誰かに声をかけられたことがあった。
祖父母の家からはじめて河原に散策に行った時のことだ。そこで見つけた大きな岩に腰かけ、いよいよ読書タイムだと、わくわくした気持ちでリュックを肩から下ろした梨里香。中に入れていたファンタジー小説『Meet You Again』を取り出したその時、大きな稲光とともに、突然轟音が響いた。
驚きのあまり目をつぶった梨里香であったが、何事もなさそうだと目を開けたとき。
どこからともなく吹いた風が、梨里香の髪を揺らすのを感じながら本を読んだとき。
ページはパラパラと反対にめくられるように、一番最初に戻ってしまう。
風のいたずらだと思った梨里香は、もう一度しおりをはさんでいたページをあけた。
すると無風であったにもかかわらず、またさっきと同じようにページは反対に動き出す。
梨里香は状況が飲み込めず、小首をかしげながら、もう一度しおりをはさんでいたページをあける。
しかしまた同じように最初のページへと戻ってしまう。
そのとき、第1章のサブタイトルは『嵐の中で』から『第1章 晴天の霹靂』へと変化していた。
そして本文を確認しようとしたそのときのことだ。
「やっと見つけた」と不意に現れた少年。
その少年がリリィと呼んだ。
その少年は梨里香のことを確かに『リリィ』と、そう呼んだ。
梨里香は少年に全く見覚えがなく、名も知らない少年。出逢ったばかりの少年。
だが彼は確かに『リリィ』と声に出した。
意味も解らず少年に質問をすると、「ムリもないよね。あんなことがあったんだから」と返事があり、梨里香はその意味をずっと知りたかった。
ロサラル王に、「君たちがここに来たことと関係がある」と言われて、そのことを思い出したのだ。
梨里香は、自分たちがこの世界に導かれて来たのなら、その理由を知りたいと思った。
紫苑も梨里香のことをこの世界では“リリィ”と呼ぶことを承諾した。
国王たちは、この世界での呼び名というようなことを口にしていたからだ。そしてここにいる5人以外の人間が周りにいるときは、国王のことは“ロサラル王”と呼び、王として敬った態度をとること、という補足がついていた。
友人のようにあだ名で呼び合い、気さくに話すのは、あくまでもこの5人だけに限定するということだ。
紫苑はここまで具体的な話をされて、その意図が知りたいと思った。
ただの観光客に対する内容ではないし、まだ自分たちが知らないことがあるのだと考えたからだ。
「では、お言葉に甘えて、ロサ王」
紫苑は口を開いた。
「ん? なんだシオン」
紫苑は自分が抱いている疑問を、率直に国王に伝えた。
すると国王は、「ふむ」と少し考える素振りを見せながらも、口角を上げ、答える。
「これは少々先走ってしまったようだな。シオンが戸惑うのは無理もない。もう少し互いのことを知り合ってからと思っていたが、先に話しておいた方がよさそうだな」
そう言うとロサラル王は立ち上がり、「しばらく寛いでいるように」と言い残してその場を離れた。
後の4人は軽く会釈をし、国王を見送る。
「えっと。俺、なんかまずいこと言っちゃいました?」
紫苑が不安になるのは無理もない。
国王は、紫苑からの質問に対して、何かを話そうとしているらしかったのは紫苑にも解ったが、その後、理由を告げずに部屋から退出して行ったのが、気になったようだ。
「いや。ロサはある場所に向かったのだと思う。すぐ戻ると思うから、心配せずに待っていよう」
「はい」
エルトルーシオの言葉に少し安堵した紫苑は、ふうと息を吐いて背もたれに身を預けた。
「ロサ王のお話って何なのかしら」
梨里香がボソッとつぶやく。
「ふふふ。じきに解るわ」
アナスタリナは含みのある笑顔を見せた。
梨里香と紫苑は、ロサラル王がどこに行ったのか、また、戻ってきてどんな話を聞くことになるのか、それは良い話なのかそれとも……と思考を巡らせている。
ロサラル王に、「君たちがここに来たことと関係がある」と言われ、「先に話しておいた方がよさそうだな」と言われ。
自分たちの身に起こったことと、これから起こるかもしれない未知の出来事に、少々の不安を抱きながら、梨里香と紫苑はロサラル王の帰りを待った。
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