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Meet You Again  作者: 藤乃 澄乃
第2章  旅立ち
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第14話   王との対面

 しばらく走って、馬車の速度が落ちた。

 段々と緩やかに減速してゆき、馬車は城の門の前で止まる。


 大きな石垣で両側を固められ、その中央に2階建ての屋根ほどもある、梨里香と紫苑が今までに見たこともないほどの巨大な木製の門がそびえていた。

 あまりに近すぎて、城の全貌はここからは見ることができない。 


 エルトルーシオが門番と二言三言交わすと、門番からの合図で、城門がぎいと音を立ててゆっくりと両側に開かれてゆく。4人の乗った馬車は、またそろそろと進み出した。


 所定の場所に馬車を止めたエルトルーシオは、馬車を降りて他の3人にも降りるように促した。

 いよいよ国王に目通りがかなうのかと思うと、梨里香と紫苑の緊張が増す。

 目の前に現れた立派な城を見上げ、武者震いをする紫苑に対し、梨里香はおとぎの国のお城を見るような目つきで、うっとりとしている。


「さあ、行こうか」


 エルトルーシオの声にふたりは襟を正す。



 長い廊下のいくつかの角を曲がり、階段を上り、いくつもの部屋の大きな扉を横目にひたすら歩いた。


 そうしてやっと一際ひときわ豪華で重厚な扉の前で、エルトルーシオの足が止まる。

 梨里香と紫苑はいよいよかと鼓動が走りはじめ、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 エルトルーシオが扉番に告げ、ロサラル王のいる王の間の外から声をかける。


 入室を許可する返答が返ってくると、扉番がそろりと扉を押し開けた。

 4人は入室すると立ち止まり、エルトルーシオとアナスタリナが深々とお辞儀をする。

 その様子を見て、梨里香と紫苑も慌てて頭を下げた。


 王の間はとてつもなく広く、声がよく響く。

 しんとした空間が緊張感を増幅する。


「おお。よく来たな。待っておったぞ」


 にこやかにロサラル王は声をかけた。

 エルトルーシオが一歩前に出て挨拶の言葉を述べ、続いてアナスタリナも挨拶を述べた。

 ふたりのいつもとは違う改まった言動に、梨里香と紫苑は驚くばかりである。

 それは港街の住人とは思えぬほど流暢な美しい言葉であったし、しなやかな動きであった。

 それを見て梨里香と紫苑は、もしかしてエルトルーシオとアナスタリナは、良家の子息と令嬢なのではないかと思うほどである。


 次にエルトルーシオが梨里香と紫苑を王に紹介する。

 ふたりにとってはじめて見る本物の国王は、梨里香と紫苑が想像していたよりも若く、エルトルーシオと同年代に思えた。


「はじめまして。紫苑と申します」


「はじめまして。梨里香と申します」


 ふたりは緊張しながらも、無事挨拶の言葉を述べることができた。


 その後、ロサラル王を交え、用意されたテーブルにつき、高級そうな食器に注がれた紅茶をすすりながら、エルトルーシオとアナスタリナからこの国についての説明を受けることになった梨里香と紫苑。

 産業や貿易、地理や歴史など簡単に一通りのことを教わった。


 ふたりは時折相づちを打ちながらも、熱心に聞き入っていた。


「まあ、最初はこんなところかな」


 エルトルーシオの言葉に、梨里香と紫苑は“勉強会”が終了したと、ホッとひと息をつく。


「どうだ、この国のことを少しは解ってもらえたかな?」


 ロサラル王の問いかけに、ふたりは「はい!」と元気よく答えた。


「はっはっは。そんなにかしこまらずとも」


「い、いえ。王様の前では誰でも緊張します」


 王の言葉に紫苑は言う。

 それを受けて、ロサラル王は提案した。


「それならば、呼び方を決めようではないか」


「え、呼び方……ですか?」


 紫苑には王の意図が掴めないでいる。


「そうだ。まあ、今日会ったばかりで呼びづらいかもしれないが、あだ名とでも言うべきか、気安く呼び合えると、もっと距離が縮まるのではないかと思ってな」


「はあ。で、でも王様にそのようなこと、失礼では……」


 梨里香が答えると、王はキッパリと言い放った。


「これは、私が認めた者にしか言わないことだ。迷惑か?」


「と、とんでもない!」


「光栄です!」


 梨里香と紫苑は慌てて答えた。

 その様子を見て、なぜかエルトルーシオとアナスタリナは笑みを浮かべている。


「では、決まりだな」


 王の言葉をきっかけに、エルトルーシオが口を開いた。


「ロサラル王のことは“ロサ王”と。俺のことは“エル”、アナスタリナはもう呼んでいるとおり、“アナ”と呼んでくれるといい」


「そんな気さくに呼んじゃっていいんですか?」


 紫苑が気にするのは無理もない。


「呼んじゃっていいのよ。これから長い付き合いになるんだから」


 アナが笑いながら答えると、梨里香と紫苑も納得した。

 しかし、アナが言うところの『長い付き合い』という言葉の意味に、まだ梨里香と紫苑は気づいていない。


「それから」


 エルトルーシオは続ける。


「梨里香と紫苑のことは、今後“リリィ”と“シオン”と呼ぶことにする」


「ええ!?」


 紫苑は“シオン”とそのままだからいいとしても、梨里香は“リリィ”と呼ぶと言われてとても驚いた。

 なぜなら、愛読書『Meet You Again』の主人公と同じ名前だからだ。

 その本は、梨里香と紫苑がこの異世界へと導かれるきっかけとなった本である。


 そしてこの『リリィ』は、彼女の両親だけが梨里香のことをそう呼んでいた。

 だからファンタジー小説『Meet You Again』の主人公『リリィ』に親近感がわいていたのだ。

 なにか関係があるのだろうか。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。紫苑と梨里香、ロサラル王と謁見できて良かったです。しかも、ニックネームのように気軽な感じで呼んで構わないとは、王はとても気さくな方ですね。エルトルーシオとも親友のままで…
[良い点] 第14話   王との対面 読みました。 いよいよ動き出しそうですね! 楽しみです。
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