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Meet You Again  作者: 藤乃 澄乃
第2章  旅立ち
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第14話   お城を目指せ(2)

 よく眠れなかった梨里香と紫苑であるが、楽しみな気持ちの方がまさっており、睡眠不足でぼんやりしているということはなかった。

 それぞれ身支度を整えて、階段を降りる。


「おはよう。よく眠れたかい?」


 既に身支度を整えてテーブルについているアナスタリナがふたりに問いかけた。


 梨里香と紫苑はそれぞれ「おはようございます」と挨拶をし、「ちょっと睡眠不足です」と梨里香がつけ加える。


 と、そこへエルトルーシオがやって来て、いよいよ出発の時が近づく。

 高鳴る鼓動を抑えつつ、梨里香と紫苑は言われるとおり、宿屋の前につけてある馬車に乗り込んだ。

 続いてアナスタリナが乗り込み、エルトルーシオは御者台に乗る。


 それから港街を出発し、エルトルーシオはお城へ向かうべく馬を操って走らせた。

 お城といっても、この港街からは休みなく馬車で走って2日ほどのところにある。休憩のために街に寄ったりして4、5日は優にかかる距離だ。


 旅慣れている者であっても、休み無しに馬車に2日間も揺られるのは大変な労力である。ましてや馬車に乗るのがはじめての梨里香と紫苑にそんな荒行のようなことができるはずもない。そしてなにより馬も休ませなければならない。

 エルトルーシオは、途中の治安の良い街で休憩、宿泊する手はずを整えていた。



 梨里香と紫苑はお城に向かうことが嬉しくて仕方がないと、誰の目にも解るぐらいにはしゃいでいた。

 しかしやっと慣れた港街を後にするときは、少々名残惜しいというか、寂しい気持ちがよぎる。

 それが表情に表れていたのか、アナスタリナに「またいつでも帰ってこられるから」と声をかけられ、頷き、微笑みで返した。


 急ぐ旅ではなかったので、馬車は比較的ゆっくりとした速度で進み出した。

 そして次第に速度を上げ、はじめに休憩する予定の街まで広大な草原の中、早朝の清涼さをまとい馬車は走る。


 この草原の東側には、梨里香と紫苑がはじめてこの世界に訪れたときに降り立った場所、『みぎりの大岩』があり、その向こうから北側まで続く大きな森、その森の奥には山がそびえている。

 馬車は西を目指していた。

 遠くに見える街を。その先の大きな城を。


 草原には馬車が走る道が整えられており、その周りには可愛らしい花が咲いている。

 梨里香と紫苑は窓からのはじめて見る景色に釘付けだ。

「あれはなに?」「どういう場所?」とアナスタリナを質問攻めにしているが、彼女はそれに対し嫌な顔ひとつせず、にこにこと丁寧に答えている。


 そうこうしている間に、太陽は高く昇り、みんなのお腹がぐうと鳴りだした。

 そこで適当な場所に馬車を止めて、持参していたランチを食べようということになる。

 アナスタリナが取り出したバスケットの中は、色とりどりのフルーツやサンドウィッチで溢れていた。


「え、これってサンドウィッチですよね?」


 梨里香の問いにアナスタリナはうなずく。


「わあ、ここでサンドウィッチが食べられるなんて!」


 紫苑が大喜びで言うものだから、アナスタリナは少し不思議そうな表情を滲ませる。


「サンドウィッチがそんなに珍しいのかい?」


 梨里香も紫苑もこれまで、アナスタリナが任されている宿屋に宿泊しながら、いろんな食事を提供されてきたが、その都度、自分たちの世界で食べているものが普通にこの異世界でも食べられることに疑問を感じながらも、そんなことより、それらが食べられることを喜んだ。


 食事が合わなければ、他のことがどんなに気に入っていても、次第に苦痛になっていくものだが、この世界と現実世界との共通点が多いため、ふたりは楽しく過ごすことができている。


「いえ、嬉しいんです」


 紫苑の言葉に梨里香も「そうそう」と相づちを打った。


 しばらく休憩をして、4人はまた馬車に乗る。

 もう少し走ったところの街で今夜は泊まる、とエルトルーシオはみんなに告げて、出発した。





 そんなことを繰り返しながらの4泊5日を、梨里香と紫苑は終始旅行気分で楽しめた様子である。上機嫌で過ごす『小さな旅』は間もなく終わりの時を迎えようとしていた。


「もうすぐお城に到着するぞ」


 御者台のエルトルーシオから声がかかり、梨里香と紫苑に緊張が走る。

 さきほどまではしゃいでいたのが嘘のように、呼吸の間隔が早くなったり深呼吸をしてみたりと言葉少なになった。


「やだ、緊張してるのかい?」


 アナスタリナの問いに、「当たり前です!」と梨里香が答える。


 手のひらにうっすらと滲んだ汗を、梨里香と紫苑は握りしめていた。


「緊張しなくても大丈夫だから」


 そう言ってアナスタリナは微笑むが、この状況で緊張するなと言われても、今の梨里香と紫苑には無理な話である。

 一国の王との対面の時間が迫ってきているのだから。


  梨里香と紫苑の緊張をよそに、城へと続く一本道を馬車はひた走る。



お読み下さりありがとうございました。


いよいよロサラル王との対面の時が近づいてきました。

次話「第14話 ロサラル王との対面」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第14話   お城を目指せ(2)読みました。 バリバリ緊張しそう〜〜です。(>_<)\ でも食欲はあるみたいなので、凄いです!
[一言] いよいよ御対面ですね。どうなるでしょうか?
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