第14話 お城を目指せ(1)
梨里香と紫苑はアナスタリナと一緒に宿屋に戻ってきた。
それを待ち構えるように扉の傍に立っていたエルトルーシオに、梨里香は声をかける。
「あ、エルトルーシオさん。お帰りなさい」
梨里香が笑顔で挨拶すると、エルトルーシオは「ただいま」と短く返した。
紫苑はその場で会釈をする。
アナスタリナが「まあ、立ち話もなんだから」と、テーブル席へとみんなを促した。
4人は奥にある食堂のテーブルまで歩いて、席につく。
「で、お城はどうだった?」
アナスタリナの問いかけに、エルトルーシオは「変わりなかった」と答え、一呼吸おいて3人を順に見て、一旦目線を落とす。
それから小さく息を吸い込み、吐き出した。
梨里香と紫苑は今からどんな話になるのかと、固唾を呑む。
「早速だが」
エルトルーシオは話を切り出した。
梨里香と紫苑、それにアナスタリナは緊張の面持ちで耳を傾ける。
「王が梨里香と紫苑に会っても良いとおっしゃられた」
その言葉を聞いてアナスタリナはにっこり微笑んで、「よかったね」とふたりに言う。
梨里香と紫苑はあまりのことに、ビックリして声も出ない。
ただ、目を見開いてぱちくりと大きく瞬きをするのが精一杯の様子である。
無理もない。一国の王がどこの誰とも解らぬ旅の途中の少年少女に“会っても良い”と言うなんて。
梨里香と紫苑は王に会いたいと思っていたし、エルトルーシオとアナスタリナに会えるだろうとは言われていたが、まさか現実に会える機会ができるとは夢にも思っていなかった。それゆえ、俄には信じがたいのだろう。
「どうした。嬉しくないのか?」
エルトルーシオの声で我に返ったふたりは、ようやく喜びの表情を浮かべる。
「本当に?」
紫苑は少し興奮気味で聞き返す。
「ああ。本当だ」
それを聞いて梨里香は胸の前で両手を合わせて、「わあ!」と喜びの声を上げた。
「準備が整ったら、近いうちにここを出発して城へ向かおう」
準備と言われても、梨里香と紫苑はそれぞれリュックをひとつ持っているだけなので、そんな大がかりな支度はない。
もしあるとすれば、心の準備のみだ。
「いつでも大丈夫です」
梨里香がそう言うと、紫苑も続けて発する。
「ここからお城まではどのくらいかかるのですか?」
エルトルーシオは少し考える素振りで答える。
「そうだな。ここから行くとなると休みなく馬車で走って2日ほど。途中休憩のために街に寄ったりして4、5日ってところかな」
梨里香と紫苑は馬車に乗るのははじめてなので、エルトルーシオの言葉に楽しみが増したようだ。
そしてエルトルーシオは続ける。
「それからアナ。一緒に来てくれ」
4人でちょっとした旅行気分を味わいながらお城に向かう。
梨里香と紫苑はとても嬉しい気持ちになり、大喜びである。
すぐにでも出発したい梨里香と紫苑の気持ちを汲んで、明日の朝出発することに決定した。
それから4人は旅の話でしばらく盛り上がった。
やがて夜になり、夕食を済ませた4人は、明日は朝早く出発するとのことで、それぞれ早く寝ることにした。
しかし梨里香と紫苑は遠足前日の子供の様に、わくわくした気持ちとドキドキした気持ち、少々の不安な気持ちが入り乱れ、すぐには眠れそうにない。
取りあえず、「おやすみなさい」と挨拶をして梨里香と紫苑は2階の部屋へと向かう。
階段を上りながら梨里香が紫苑に話しかけた。
「ねえ、国王にお目にかかるなら、なにかお土産とか持っていった方がいいのかしら」
それに対し紫苑は、それもそうだなと思い言葉を返す。
「そうだな。でも、なにを渡せばいいのやら。その辺はアナさんとエルさんに任せた方がいいんじゃないか?」
「それもそうね。あ~、でもなんだか今から緊張する~」
「今日はとても眠れそうにないな」
それぞれの自室には入ったが、梨里香も紫苑も朝までベッドの上で右を向いたり左を向いたりと、寝返りを打つばかりで、結局ふたりともよく眠れなかったようだ。
そうこうしているうちに、いよいよ眩しい光が窓から差し込んできて朝を告げる。
お読み下さりありがとうございました。
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