第13話 スタンス
エルトルーシオから梨里香と紫苑について詳しく報告を受けたロサラル王は、時折うなずきながら、静かにひととおりの話を聞き終えた。
なるほどというような面持ちで、王は2、3度首を縦にうなずくように動かす。
そしてエルトルーシオに向かって言葉を発した。
「して、エルトルーシオ」
エルトルーシオは小さく息を吐く。
王は続ける。
「お前はどう思う?」
王の表情や言葉づかいはそれまでとは違い、かなり砕けた雰囲気に変わった。
それを受けてエルトルーシオは答える。
「俺はいいと思うよ。少しの間だが接してみて感じたことだけど、あのふたりは性格も前向きで明るい。困難にも逃げ出したりしないだろう。責任感もあるようだ」
「そうか。それなら安心だな」
そう言うと、王はともに学んだかつての学友にして親友であるエルトルーシオに安堵の表情を見せた。
「ただ」
だが、エルトルーシオは少し気になることがあるようで、話を続ける。
「ただ?」
王が聞き返すと、エルトルーシオは答えた。
「すぐにひとを信用しすぎるきらいがある」
「だがそのおかげで、アナもお前も信用されたんだろ?」
アゴに手を当てて少し難しい顔で言うエルトルーシオに王が返すと、「それもそうだな」とふたりは笑い合った。
代々王家に仕えてきた家柄のエルトルーシオは王と同じ年で、幼馴染みとでも言うべきか、子供の頃からよく一緒に過ごし、お互いの悩みを打ち明けたり相談したりし合う、今では親友と呼び合える間柄である。
この国には身分の高い者が学ぶ手段として教育係がおり、王が学ぶときにはエルトルーシオもその隣で勉学に勤しんでいたものだ。
また武術についても同じで、王家に仕える超一級の武闘家や剣士などのもと、王と一緒に徹底的に教育されたのである。
それはエルトルーシオだけに許されたことであった。
エルトルーシオも今では例に漏れず王の側近として仕え、公私共に信頼し合える関係である。
それは城の中ばかりではなく、国民の間でも有名なことであり、今回のようにエルトルーシオが訪ねていけば街の者はみな協力的だ。
エルトルーシオは、代々仕えてきたという家柄には関係なく、ロサラル王自身の人柄に惚れ込んで、王の力になりたいと傍で王を支えている。
そのことはこれからも変わることはないであろう。
王の側近として代々仕えている家柄というのは、もうかなり昔に遡る。いつの時代かは定かでないが、ある時『選ばれし者にのみ与えられる特殊な能力』をあるところから与えられ、その時以来それを受け継いでいる家系ということである。
もちろんエルトルーシオもその力を受け継ぐ者である。
今ではその『選ばれし者にのみ与えられる特殊な能力』というのは、この国では国王のロサラルとエルトルーシオの家系のみが持ち合わせているものである。
一方ロサラル王は、エルトルーシオの行動力があり、責任感のある性格に一目置いている。そして王が悩んだ時にはじっくりと話を聞いてくれ、アドバイスを求めたときには的確な助言をくれると、とても信頼している人物である。
ロサラル王は、王という立場上、気を張っていることも多いが、エルトルーシオといるときは普通の若者のように無邪気になれるし、王にとって彼はこころを許せる存在であり、それはエルトルーシオにとっても嬉しいことであった。
それ故、立場上は君主と家臣ということではあるが、普段は仲の良い友人というスタンスを貫いている。
だがそれを良く思わぬ者が存在するのも確かなことであった。
自分が王の一番の家臣になりたいと、出世欲の塊のような人間。
はじめは小さな火種でも、くすぶっていくうちに大きな炎となり得ることを理解していなければならない。
しかしそれがどの胸の内にくすぶっているのかは、まだ誰も気づいていないことであった。
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