第13話 報告
アナスタリナに案内されて、港街を数日かけてゆっくりと見て回っている梨里香と紫苑。
船長が知り合いだからと、停泊中の船の内部を見せてもらったり、いろんなお店やレストラン、憩いの場や眺めの良いお薦めの場所など、アナスタリナはあるときはまるで教育係のように詳しく説明してみせたり、またあるときは友人のようにはしゃぎながら楽しんでいた。
彼女はふたりが喜ぶ姿を見るのが嬉しくて、時間の許す限り出かけては街をくまなく案内している。
梨里香と紫苑はそんなアナスタリナのおかげもあって、この街にもだいぶん慣れてきた。今では顔見知りのひともできたほどである。
それは、アナスタリナが知り合いに出くわすと、その都度声をかけてふたりを紹介して回ったからだ。
ふたりは元来の明るさとひとなつっこい性格もあり、すぐに街のひとたちと打ち解けていった。
梨里香と紫苑のお気に入りは、メルヘンチックな装飾品や珍しい品物がたくさんおいてある雑貨屋と、アナスタリナに教えてもらた街中が見渡せて、広大な海も一望できるとっておきの場所だ。
今では街の地理もある程度把握できているので、アナスタリナが忙しい時などは、梨里香と紫苑だけでも出かけるようになっていた。ただし、なにかあるといけないからと、行き先は告げて出かけるということだが。
今日もそのとっておきの場所にふたりは向かうのだった。
☆ ☆ ☆
エルトルーシオは心地良い風に吹かれながら、城へと向かって馬を走らせる。だが然程急いでいる様子はなく、途中の街へはその都度立ち寄り、誰かを訪ねたり、捜し物をしたりと、なにやら忙しそうに用事を熟しているようだ。
それは先に送った使いの者が、王への簡単な報告を済ませているからということもあるが、エルトルーシオは物事の先を見据えて行動する人物なので、王に会う前にいろいろと済ませておきたいことがあるのだろう。
港街から【マスナルヨシ地方】ピュリアール王国のピュリアール城へは、途中のいくつかの街を通過して、やっとたどり着く。
空飛ぶ乗り物があればもっと早くに到着するのだろうが、エルトルーシオは早馬を選択したのだった。
澄み渡る空が紺碧を映し出す、雲ひとつない。
清々しい風が王国の草原を吹き抜ける。
ここピュリアール王国は、マスナルヨシ地方に古くからある王国で、南は海に面しており貿易が盛んである。また、他国との境である北側には山や森があり、緑に恵まれた温暖な地域である。
王の温厚な性格からか人々が生き生きと暮らす、明るく平和な国であるが、先代王の時代に、ある困難が国を襲う。しかしある者たちの活躍により、また平和を取り戻した。
それからは平穏な時間が過ぎていったのだが、近頃、近隣で不穏な動きが報告されている。
今はまだウワサ程度のものだが、王はいざというときに備えて準備をはじめようとしていた。
今日明日すぐにどうこうというわけではないが、ゆっくりと先のことを考えているようである。
数日間かけて準備を整え、早馬を走らせていたエルトルーシオはようやくピュリアール城に到着し、王の間へと急ぐ。
――王の間――
ロサラル王は先に送られた使いの者から概略を聞き、エルトルーシオの到着を待っていた。
ある程度のことは報告を受けたとはいえ、詳しいことはエルトルーシオ本人の口から直接聞きたかったからだ。
使者が訪れてから数日、王の間ではロサラル王がゆっくりとリラックスしながら、昼下がりのお茶の時間を楽しんでいた。
とそこへエルトルーシオがようやく城に到着したとの知らせが入る。
「おお、そうか。すぐに通せ」
ロサラル王は、穏やかながらも先ほどまでとは違い、キリリとした目つきに変わる。
しばらくして、王の間の扉をノックする音とともに、扉番がハキハキした声でエルトルーシオが来たことを告げた。王が入室を許可すると大きく重厚な扉が扉番によってゆっくりと開かれる。
「失礼いたします」
エルトルーシオは扉から数歩入ったところで両足をきちっと揃えて止まり、一礼した。
「待っておったぞ」
傍に仕えていた大臣に会釈をし、エルトルーシオは王の近くまで歩を進める。
王は人払いをし、その場に居合わせた者は扉へと向かった。
しかし大臣だけは退室を渋り、居座ろうとする。
「私もエルトルーシオ様のお話を伺いたく存じます」
彼は厚かましくもそう言い放ったのだ。
王は仕方なく許可したが、最近は大臣の出しゃばる、なんでも知りたがる言動に少しうんざりしていた。
エルトルーシオはそれを察してか、当たり障りのない情報のみをまずは伝えることにし、静かに話し出す。
一通り話し終えると、大臣はそれを聞き、満足げな笑みを浮かべる。
しばしの沈黙の後、ロサラル王が出て行くように強く促したため、大臣は仕方なく王の間を後にするのだった。
その後ろ姿を見送って、「困ったやつだ」と王は溢す。
それからエルトルーシオは、梨里香と紫苑について、今の自分が知りうる全ての情報を王に伝えた。
王は時折うなずきながら、静かに話を聞いている。
穏やかな面持ちでひととおりの話を聞き終えた王は、最後にエルトルーシオに尋ねた。
「して、エルトルーシオ」
そこまで発して、王の表情はそれまでとがらりと変わる。
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