第13話 お城に行ける?
異世界での2日目の朝を迎え、梨里香と紫苑はお互いの思うところを述べ、今後のことを話し合った。
その後促されて階下の食堂へと向かう。
朝食のあと、ここの主人と思われる女性に問われる。
「それで、これからどうするんだい?」
梨里香と紫苑は、先ほど話し合ったとおり、この異世界のことについて少し女性に尋ねてみた。
しかし女性にとっては当たり前のことばかりで、ふたりの問いかけにあきれるばかり。
梨里香と紫苑は不審な目つきを窺わせる女性に、遠方の田舎町からはるばるやって来たので、ここの勝手がわからないと言ってごまかす。
女性もなにか事情があると察してか、あまり多くは追究することはなかった。
この世界はどうやらいくつかの国や帝国に分かれており、国は『王』、帝国は『皇帝』という存在が治めているらしい。
なんだか中世のヨーロッパのような感じではあるが、それも梨里香と紫苑には興味深いところであった。
現在、梨里香と紫苑がいるところは【マスナルヨシ地方】の『ピュリアール王国』というところで、【ロサラル王】が統べる王国であるらしい。
国王は温厚で思慮深く、国民の信頼も厚い人物ということだ。
「どんなひとなんだろう」
女性の話を聞いていて、紫苑はふとその人物のことが気になって呟く。
「会ってみたいなぁ」
それを受けて梨里香もそう言葉にした。
「って、ムリですよね。そんな王様にお目にかかるなんて」
と、紫苑は笑って打ち消したが、女性からは意外な返答が返ってくる。
「お城に行ってみれば?」
驚いた梨里香と紫苑は顔を見合わせた。
お城といえば厳かな、近寄りがたいイメージがある上、彼らにとってどこの誰とも解らぬ者を、そうやすやすと招き入れてくれるはずがないと思ったからだ。
女性の話では、この国の城は開かれた城で、誰か信用できる者の紹介でなら比較的スムーズに城に入れるという。ここの料理人が城に出入りしていて、その伝手で行けるんじゃないかということだ。
「ねえ、そうでしょ?」
女性の問いかけに、男性は笑顔で「もちろん」と答えた。
その返答を聞いて、ファンタジー好きな梨里香と紫苑は俄然前のめりになる。
お城など、現実世界では観光でしか行くことがない。実際に人が住んでいるお城は一度は訪れてみたい場所である。
「じゃあ、決まりだね」
女性の言葉に梨里香と紫苑は「やったー」と喜んだ。
「でも、いくらなんでも今すぐにというわけにはいかないから、しばらくの間、ここに泊まってこの街を散策するっていうのはどうだい?」
梨里香と紫苑は「それもそうだ」と納得し、しばらくの間は女性か料理人の男性と一緒に、この港街を見て歩くことになった。
ふたりだけでも散策はできるだろうが、また昨日のように荒くれ者に絡まれたりしたら大変だということで、この家のどちらかが一緒に出かけるということだ。
早速今日から出かけることにはなったのだが、付き添いの2人の予定を調整して、梨里香と紫苑はここの主人と思しき女性と3人で出かけることになった。
しかし女性も少し片付けものがあるとかで、用を終えたら声をかけるから、それまで2階の部屋でゆっくりするように促される。
梨里香と紫苑は食後すぐでもあったし、少し休憩してからの方がいいと2階のそれぞれに用意された部屋に向かう。
ふたりはこの後の散策が楽しみで仕方ない様子で、わいわいとはしゃぎながら階段を上っていった。
それを見送って、食堂に残った女性と料理人の男性は話を始める。
「国王に連絡を入れなくてはなりませんね」
女性の声に男性は答えた。
「ああ。今日みんなが出かけた後に、急いで城に向かうとしよう」
「早くお城に向かいたいだろうけど、しばらくあの子たちを引き留めなければ」
「頼んだぞ。私は国王の指示を仰ぐ」
どうやらこの2人は、梨里香と紫苑がここに来る途中で遠目に目にして憧れていた城と、なにか関係がありそうだ。
しかしそんなことは梨里香と紫苑は全く想像もしていない。
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