第12話 今後のこと
次の日の朝。
梨里香は目覚めると、身支度を整えて隣の紫苑の部屋の扉をノックした。
「はい」
中からはハッキリとした口調の返事が返ってくる。
梨里香は紫苑ももう起きていると安心して声をかけた。
「梨里香だけど、もう用意はできた?」
「ああ。どうぞ」
紫苑に言われて、梨里香はドアを開けて部屋に入る。「おはよう」と軽く挨拶を交わし、数歩進んで足を止めた。
紫苑が「ずいぶん早いな。どうした?」と声をかけると、「今日の予定を立てようと思って。それと今後のことを話したいなって」と梨里香は答え、真剣な眼差しで紫苑を見つめる。
「そうだな。オレもそう思ってた」
ふたりは昨日覚悟を決めて異世界にやって来たわけだが、それからの出来事を振り返って少し整理してみた。
見知らぬ土地にやって来て、物珍しさにいろんなところを歩き回って、少々怖い思いもしたけれど、物語で読むファンタジーの世界を少しだけ垣間見ることができた気がして、とても楽しかったというのがふたりの気持ちだ。
そして梨里香は、昨日懐かしの『里芋カレー』を食べてビックリしたのと同時に少しばかりホームシックになってしまったことを正直に話した。
多くの出来事を体験したように感じたけれども、よく考えたらまだこの世界に来て1日しか経っていないということに気づき、もう少しここで過ごしてみたいと思うようになったという。
紫苑は梨里香の話を聞いて、彼が思うところを述べた。
まずここの女主人らしき女性は、信用できそうだと感じたこと。
料理人の男性は物腰は柔らかく、穏やかな口調だけど眼光が鋭い気がしたということ。
もう少しここで過ごすことには賛成だが、今までのようにむやみやたらとその時の気分で進んで行くのは危険ではないかと話した。
それには梨里香も同意する。
ふたりは今後のことも考えて、ひとまずここの女主人にこの世界のことを詳しく尋ねてみようということで意見は一致した。
しかしふたりは、異世界と思しきこの世界は、案外自分たちの世界との共通点が多いのではないかと感じているのは確かで、食事や食器、建造物に街並み、その他共通点は数え切れない。むしろ相違点を探す方が簡単な気さえした。
そこにはなにかヒミツがあるのか、ないのか。
まだまだ解らないことは多い。
そうこうしていると、誰かが紫苑の部屋の扉をノックする。
紫苑がドア越しに返事をすると、男性の声で「朝食の準備ができましたので、1階の食堂にお越し下さい」と促された。「ふたりですぐに行きます」と紫苑が言うと「お待ちしています」と男性は足音とともに去って行った。
その後ふたりは階下の食堂へと向かう。
部屋の扉は開け放たれていたので、入り口で「おはようございます」と声をかけ、夕べと同じテーブルにつく。
そこにはここの主人と思われる女性と、料理人と思しき男性がおり、ふたりを笑顔で迎え入れる。
「夕べはよく眠れたかい?」
女性にそう問われ、ふたりは「はい」と答えた。
「ベッドの寝心地はいかがでしたか?」
男性にそう聞かれ、梨里香は「とても良かった」と、紫苑は「同じく」と答える。
しばらく雑談をしているうちに、テーブルには朝食が並べられていく。
今日のメニューは豆のスープにサラダ、オムレツにハム……。
梨里香と紫苑はそのメニューを見て、やはり自分たちの世界となにも変わらないと確信し、お互い目を合わせ「やっぱり」と微笑んだ。
味付けも自分たちが普段口にしているものと変わりなく、これなら大丈夫だと胸をなで下ろす。
食事は大事なもので、いくら景色やひとが良くても、食事が口に合わなければそれは居心地の良い場所ではなくなってしまうからだ。
梨里香と紫苑はあっという間に平らげて、満足げに両手を合わせ「ごちそうさまでした!」と元気よく放った。
ふたりが自分たちが食べ終わった食器を片付けるために席を立とうすると、男性に気を使わなくていいと言われ、もう一度席に座り直す。
「それで、これからどうするんだい?」
女性にそう問われ、梨里香と紫苑は顔を見合わせた。
お読み下さりありがとうございました。
これからいろんな事が少しずつ明かされていきます。
そしていよいよ!
次話もよろしくお願いします!




