第12話 疑問だらけ
梨里香は女性が口にした料理の名前、『サトイ・モカレイ』がひょっとして祖母の得意料理にして梨里香の大好物の『里芋カレー』ではないかと思い、女性に聞いてみた。
すると女性は驚いた表情を浮かべ、そして穏やかに微笑んだ。
「そうそう。そんな名前だったよ」
「やっぱり!」
梨里香は急に親近感を憶える。
「なんだよ、その里芋カレーって」
紫苑の問いに、梨里香は説明した。
「へぇ~。こんなところで梨里香のおばあさんの得意料理にお目にかかれるなんて、思いがけないな」
「うん大好物なの。しかも夏休みにおばあちゃん家で食べたばっかり」
梨里香は嬉しい気持ちでそう答えるも、この異世界に来てまだ1日も経っていないのに、懐かしく思えたと同時に祖父母のことが急に気になり、少し寂しい気持ちになってしまう。
スプーンを置いてうつむく梨里香に「どうした?」と紫苑は声をかける。
「なんだか、おばあちゃんに会いたくなっちゃった」
寂しげに答える梨里香に紫苑も食べる手を止めた。
「そうだな。とりあえず明日にでも一度帰るか」
そう言うと、紫苑はまた里芋カレーを口にする。
梨里香は「うん」とうなずき、テーブルの飲み物に手を伸ばした。
「これは」
一口飲んで、この飲み物も慣れ親しんだものだと確信する。
「ああ、それはムギチャだよ」
女性の言葉に、やっぱりと麦茶を飲み干した。
続けて紫苑も麦茶を飲み、「なるほど」とうなずく。
そこで紫苑はずっと気になっていたことを梨里香に告げる。
「異世界って、もっと突拍子もないような食材や飲み物、食べ物がでてくると思ってたんだけど、案外普通だな」
「そうね。なんか私たちの世界と近いような気がする」
ふたりの会話を聞いて女性は小首をかしげながら口を開いた。
「なんだい、その『異世界』って」
梨里香と紫苑はビクッと肩に力が入る。
自分たちが別の世界から来たということを、この女性に告げていいものか、まだ決めかねているからだ。
「あー、若者用語っていうか、オレ達の間で流行ってるんです」
紫苑は適当に言葉を紡ぐが、梨里香は少々苦笑い。
「へぇ、そうなの」
しかし女性は案外とすぐに納得した。
その様子を見て、梨里香と紫苑はホッと胸をなで下ろす。
食事を終えて、しばらくは3人で雑談に花を咲かせていたが、そろそろ夜も更けてきた頃、梨里香は眠気に欠伸をする。
それを見て女性は笑いながら、「もうそろそろ寝る時間だね」と、梨里香と紫苑の寝る部屋の準備をするように、先ほどの料理人の男性に声をかけた。
「あの方はお料理担当の方じゃ?」
梨里香の問いに女性は、「彼は器用なひとで、なんでもそつなく熟せるんだよ。だから甘えちゃってるのさ」と笑う。
そして「アタシが最も信頼してる人さ」とつけ加えた。
2階に部屋の準備が出来たと男性から伝えられ、ふたりは両手を合わせて「ごちそうさまでした」と感謝を述べる。
それから女性に「おやすみなさい」と挨拶をし、男性の後をついて2階へと向かう。
「今日は楽しまれましたか?」
階段を上りながらにこやかに聞かれて、ふたりは「はい! とても楽しい1日でした」と笑顔で答えると、「それはよかった」と男性は微笑み返した。
梨里香と紫苑はそれぞれ2階の階段を上がったところの隣同士の部屋に案内される。
ふたりはよほど疲れていたのか、部屋に入るとすぐに眠りについた。
梨里香と紫苑を部屋に案内し、一通り部屋の内部の説明を終えた男性は、1階の女性のところに向かう。
「お疲れさま」と女性に声をかけられ、「ああ」と答えると、男性はテーブルの前の椅子に腰かけた。
「どう思う?」
男性に聞かれて女性はニヤリとして答える。
「間違いなさそうね」
「では、どうするかもう少し様子を見ていよう」
2階の部屋ですっかり夢の中にいる梨里香と紫苑は、階下でふたりがこのような会話をしているとは夢にも思わないことである。
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