第12話 美しい女性
荒くれ者の一味に捕まった梨里香と紫苑は、頭と思しき男と対面する。
その男はふたりを見るなり「ほお。丈夫そうだし、なかなかいいじゃねぇか」と放ったが、梨里香と紫苑にはなにがなかなかいいのか皆目見当もつかない。
怖ず怖ずと後ずさりをしながら、ふたりは震える。
「ところで。お前たち、なにか得意なこととかはあるか?」
いきなりの質問に驚いた紫苑は、「なんの為に聞くんだ」と問う。
すると「健康な若い働き手が欲しかったところだ。得意分野で力を発揮してもらおうと思ってな」と頭は答えた。
それを聞くなり意外にも梨里香は生き生きとした表情で放つ。
「私は空想すること!」
「梨里香、なに言ってんだよこんな時に」
紫苑は梨里香の無謀な返答に呆れてそう言うと、「だって、特技を活かした雑用なんてしたくないでしょ」と小声で返す梨里香に「なるほど」と納得した。
「はあ? 空想だと? なんの足しにもならねえ特技だな。で、お前はどうだ?」
頭の問いに紫苑は少し考えて答える。
「オレは……探索、かな」
「探索だと?」
頭の眉間にシワが寄る。
「まあ、散歩……みたいな」
紫苑は苦笑しながら答えた。
「ふん。なんの役にも立ちゃしねえ」
その言葉を聞いて、梨里香と紫苑は内心ほっと胸をなで下ろした。
自分たちが役に立たないと認識されれば、もしかして解放されるかもしれないと思っていたからだ。
しかし世の中そんなに甘くはないと思い知らされることとなった。
「使えないなら、使えるようにしてやろう。オイ、野郎ども。この若いふたりに下働きの基本を徹底的に仕込んでやれ」
「へい」
一斉に答え、ニヤリとしながらふたりの方を横目で見る荒くれ者たち。
このままでは、どこかに連れて行かれてキツい仕事をさせられると感じた梨里香と紫苑は、どうすればこの状況から逃れられるかを考えた。
一生懸命考えたが、どう考えても不利な現状にいい案が浮かぶはずもなく、半ば諦めかけていたときだった。
入り口の扉がバンと音を立てて、勢いよく開かれる。
店内の全ての視線がそこに集まった。
梨里香と紫苑も扉を開けた人物に目をやる。
そこには人影がひとつ。
梨里香も紫苑も連れて来られてから少々の時間が過ぎ、薄暗い店内ではあるが、目も周りの暗さに慣れてきていた。しかし店の一番奥の方にいたため、10メートル程度も離れている入り口の人物の顔かたちまでをハッキリと認識するには至らない。
ただ、そのシルエットや雰囲気から女性であることは明らかであった。
その女性らしき人物はゆっくりと歩き、店の奥へと進んで行く。
近くを通ると男たちは茶化すような口笛を吹いたり、口々に「美人だ」「綺麗だ」と漏らし、ニヤけ顔で見送る。
ゆっくりと店の奥までやって来て、その女性は荒くれ者の頭の前で立ち止まった。
頭は彼女の知り合いのようで、「おう」と軽く声をかけている。
美しい容色の彼女は、梨里香と紫苑を一瞥し、頭に声をかけた。
「その子たちは?」
ニヤリと笑みを浮かべ、頭は経緯を簡単に述べ、これからどうなるのかと小さくなっている梨里香と紫苑を横目で見る。
「なるほど。このふたりがなにか悪さをしたってワケじゃないのね。じゃあ、この子たちはアタシが預かるわ」
いきなりの言葉に頭は慌てる。
「ちょっ、おいおい。どういうつもりだ? こいつらを先に見つけたのはこっちなんだぜ」
ふふふと笑いながら華やいだ趣のある女性は答えた。
「先に見つけたって、この子たちは物じゃないんだよ。こんなに怯えさせて。もっと丁寧に扱うことはできないのかい?」
「充分丁寧に扱ってるぜ」
頭の言葉に「床に座らされて震えているふたりを、丁寧に扱っているとはとても言えない」と返した艶やかな女性は、ゆっくりと梨里香と紫苑の方に近づいてかがみ、ふたりと視線を合わせた。
梨里香と紫苑は状況が上手く飲み込めず、その女性の目をじっと見つめる。
すると女性は「さあ、立って」とふたりを促し、梨里香に手を差し伸べた。
梨里香は言われるままにその手を取って立ち上がる。
紫苑もその場で立ち上がり、女性に「あの……」と声をかけた。
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