第11話 荒くれ者たち
港街に着いてしばらく。街のあちこちをウロウロと探索していた梨里香と紫苑だが、少し休憩がてらレンガ造りの建物の壁際へと移動する。ほっとひと息ついたのも束の間。隣にある木造の建物から出てきた強面の男に話しかけられる。
ひとは見た目で判断してはいけないと言うけれども、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら自分たちの方に近づいてくるその男は、高校生のふたりにとっていかにも『悪そう』に見えた。
そして大きな声で「おい、そこのふたり!」と言われたものだから、梨里香も紫苑も恐怖で硬直してしまう。
「おい! 聞こえないのか?」
荒くれ者の発した言葉に紫苑は緊張したが、弱腰になってナメられてはいけないと思い、平静を装い答える。
「俺たちのことか?」
「聞こえてんじゃねえか。返事ぐらいしてもいいんじゃないか?」
紫苑は鼻でフンと返す。
「はぁん? ナメてんじゃねえ! こっちへ来い!」
強面の男に来いと言われて素直に従う紫苑ではない。
「誰がっ」
誰が行くか、と言いたかったのだろうが、紫苑は敢えて最後まで言わなかった。
その代わりに、言い返すような勢いでその言葉を放ったのである。
荒くれ者がニヤリと笑う。
「ほう。強気だな」
紫苑は相手を睨みつけていた。
現実の世界では、このようないかにも海賊風な男たちと話をすることは勿論、出会うことなど皆無である。紫苑は内心では恐れる気持ちもあったが、梨里香を護らなければという思いで怯まず対峙していた。
「お前らこの辺りじゃ見かけねぇ顔だな」
紫苑は尚も睨み返す。
「どこから来た?」
そう言われてもしここで説明をしたとしても、きっと相手には理解できないだろう。しかも少々酔っ払っているように見える相手に、やれ現実世界だ異世界だ、雷に小説に音楽に……と理解が難しいと思われる説明を敢えてするとよけいに話がややこしくなると考え、紫苑は沈黙を決め込んだ。
梨里香はどうすればいいのか解らず、紫苑の陰に身を隠す。
「なんとか言ったらどうなんだ!」
そう言って強面の男は紫苑の胸ぐらを掴む。
梨里香は恐怖で声を漏らす。
それでも紫苑は一歩も引かずに、自分よりも一回りも大きい男を見据えている。
「生意気な奴め」
そう言うと男は紫苑の肩を掴み、「こっちへ来い」と引っ張った。
「やめてっ」
梨里香は咄嗟に言うが、「お前も来い」と捕まってしまう。
それを見た紫苑は「やめろ!」と男の手を振りほどこうとするが、そんなことぐらいで手を緩める相手ではなかった。
図体が大きい荒くれ者は、同じように店から出てきた仲間たちに声をかける。
「おい! こいつらを店に連れて行くから手伝ってくれ」
「任せな」
ひとりがそう答えると、傍にいた連中が一斉に梨里香と紫苑の方に向かって行った。
ふたりは抵抗するも、数人の男に取り囲まれて腕を掴まれる。
そして引きずられるように、男たちが先ほど出てきた木造の店の前へと連れて行かれたのであった。
男が木で出来た扉を開けると、ギイと軽そうな音が鳴る。先頭の男が入って行く。
それに続いて梨里香と紫苑も店の中に押されるように入っていった。
扉を入った時に、アルコールのような匂いがふたりを包んだ。
きっと酒場かなにかなのだろうと紫苑は感じた。
店内は薄暗く、オレンジに光るランプのような照明が数ヶ所に据え付けてあるのみだ。
丸いテーブルがいくつもあり、港に出入りしていると思われる男や女の客が数名腰かけていた。
客はそれぞれに笑ったり話したりしながら、紫苑たちの方をチラッと横目で見る。
しかし皆、然程気にかける様子もない。
梨里香と紫苑は引っ張られたり押されたりしながら店の奥の方へと連れて行かれた。
「そこでおとなしくしてろっ!」
そう言われて、梨里香と紫苑は床に突き飛ばされる。
ふたりは身を寄せ合って、床に座って様子を窺っていた。
梨里香と紫苑は、しばらくコソコソと話をしている荒くれ者たちを観察していたが、自分たちがどうなるのか不安な気持ちでこのまま黙ってなすがままにはしたくはない。
「俺たちをどうする気だ!」
紫苑が強く言うと、ニシシと笑いながらひとりの男が答えた。
「お頭に目通りするんだよ」
「なんのために?」
「いい働き手になるだろうよ」
梨里香と紫苑は顔を見合わせた。
「男の方は上背もあるし力仕事に使えるだろう。女の方は細々とした雑用でもさせるかなぁ」
男たちは下品な笑い声を発している。
それを見て、梨里香と紫苑はとんでもないところに来てしまったと、行く末を案じた。
「こんなはずじゃなかったのに。ちょっと冒険がしたかっただけなのに」
梨里香が小さく発すると紫苑は慰めるように言う。
「そうだな。でもまだ解らないよ。これからのことは自分たちで頭を使って乗り越えよう」
「そうね」
梨里香はニコリとそう言った。
「あ、お頭。こいつらですぜ」
ふたりを捕まえた男の声に、梨里香と紫苑は頭と思われる人物の方へと目をやる。
「ほお。なかなかいいじゃねぇか」
その男はふたりを見るなり、そう放った。
梨里香と紫苑は床に座ったまま、後ずさりをする。
梨里香と紫苑は一体どうなってしまうのでしょう。
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