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Meet You Again  作者: 藤乃 澄乃
第1章  青天の霹靂
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第9話   異なる世界(2)

【マスナルヨシ地方】ピュリアール王国


 ここピュリアール王国は、北にハサギール帝国、東にはレイダンカ公国と隣接している自然豊かな国だ。

 それぞれの国の境は、山と森が立ちはだかるように配置されており、互いの領域は尊重されている。隣国へは深い森や険しい山を行く場合も、少し遠回りではあるが、開かれた道を行く場合も関所が設けてあり、そこを通ればある程度行き来は自由で、交流も盛んであった。

 



――王の間――


 ロサラル王は玉座に腰かけ、思いに耽っていた。

 数年前に別れた弟のことを、懐かしく思い出していたのだ。

 子供の頃、兄弟は仲良く、いつも一緒に過ごしていた。


 兄のロサラル王――当時のロサラル王子は、温厚で思慮深く、思いやりのある人物であり、使用人を含め周りの者からの信頼も厚かった。それは王となった今も変わらない。

 弟の方は、すぐカッとなるタイプではあったが、冗談などを口にしたりして陽気な性格であり、時には優しい振る舞いで周りには憎めないと思わせる人物であった。


 兄弟はお互いを大切に思っており、両親亡き後、兄が王の座に就いたとき、弟は王子として兄を支えていくこととなる。




 王の間の扉が叩かれると同時に、大きな音が部屋に響く。


「国王陛下。捜索隊長がお見えです」


 外の廊下から扉番とびらばんの兵士がそう告げた。


「よし。通せ」


 王が短く答えると、装飾が施された重厚な両開きの扉が、片方だけ開かれる。


「失礼致します」


 捜索隊長はそう述べて、開かれた扉の中へと数歩入る。

 それを確認して、扉番がゆっくりと扉を閉めた。


 ガチャンと扉が閉じる音を聞くなり、その場で捜索隊長が急いで言葉を発する。


「恐れながら申し上げます。先ほど東の平原にあります『みぎりの大岩』にて時空の乱れが確認されました」


「なんだと!」


 捜索隊長の言葉にロサラル王は驚きを隠せない。

 『みぎりの大岩』はここしばらくの間、何事もなくただの大きな岩として旅の者の疲れを癒やしたり、待ち合わせの目印に使われる程度であった。

 ごくたまにその近辺で不思議な現象が報告されているが、そのようなことはこの国では珍しくはない。


 しかしその大岩には秘密があり、そのことについては王族しか閲覧を許されていない『再来と希望の書』にのみ記されているため、ごくわずかな者しか知ることではない。


 今までの不思議な現象というものは、さほど気にとめるようなことではなかったが、『時空の乱れ』と聞いて、ロサラル王は内心穏やかではなかった。

 だが、国王たる者、むやみに取り乱すことはできない。彼は至って平静を装う。


「して、時空の乱れとは?」


「はっ。『みぎりの大岩』近辺でいきなり落雷があった模様で」


「なに、落雷とな? こんなに晴れておると言うのに?」


「はい。『青天の霹靂へきれき』と言うべきでしょうか」


「晴天の霹靂……」


 ロサラル王は呟いた。


「その被害状況を調べるべくそちらに出向きましたが、付近にその形跡はなく」


「ふむ」


「我々が現場に向かう途中に、遠目にではありますがなにやら人影が」


「なに、人影とな? そやつはどういう者じゃ?」


「それが……」


 捜索隊の隊長は口ごもった。


「なんじゃ、はっきり言ってよいぞ」


「我々が駆けつけたときには……」



* * *



【マスナルヨシ地方】ハサギール帝国


 妖雲よううんが立ちこめる夕べ。

 帝国の上空には禍々(まがまが)しい気配が漂う。


 ここハサギール帝国は南にピュリアール王国、東にはレイダンカ公国と隣接している。

 それぞれの国の境は、山と森が立ちはだかるように配置されており、互いの領域は尊重されている。隣国へは深い森や険しい山を行く場合も、少し遠回りではあるが、開かれた道を行く場合も関所が設けてあり、そこを通ればある程度行き来は自由で、交流も盛んであった。




――皇帝の間――


 アデルート皇帝は玉座に腰かけ、遙か昔に思いを馳せていた。

 楽しかった子供時代。皇帝となった今では懐かしい想い出である。


 今でこそハサギール帝国の皇帝であるが、以前はある国の王子であった。

 そして何事もなく平安な日々をすごしていたが、ある時、ある者の提案で、近隣のハサギール王国の後継を担う話が持ち上がる。

 はじめは自分が生まれ育った王国を出ることなど考えられず、当時のアデルート王子は断り続けていた。

 しかし周りからの強い勧めもあり、渋々承諾したのだ。


 そして故郷を後にし、ハサギール王国の王となったアデルートは、頭角を現し故郷と同じく平和な王国を築いていった。

 それから数年経った時、周りから囁かれたのだ。

 今ならもっと大きな国を築ける、と。


 苦労知らずで育った王は、その甘い囁きを鵜呑みにして、次々と周りの国を支配下に置き、今ではハサギール帝国を築き、その皇帝として君臨している。




 そして今、アデルート皇帝は玉座に腰かけ、遙か昔に思いを馳せていた。

 楽しかった子供時代。それは皇帝となった今では、懐かしい想い出である。



みぎりの大岩』

砌……古語です。「とき」という意味もありますが、「水ぎわ」という意味もあります。

   他にもいろいろ意味合いはありますが、

  「あることの執り行われるところ」「あるものが存在する場所・時」という意味合いもあります。


お読み下さりありがとうございました。


次話より第2章『旅立ち』に入ります。

次話「第10話 異世界へ(1)」もよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 遂に梨里香と紫苑が邂逅しましたね! 今後の展開に期待です。 [一言] なんいうか海外文学作品のような ファンタジーですね。 なろうではこういうのは珍しい。 梨里香と紫苑の居る現実世界と…
[一言] 本格的なファンタジーですね。続きが楽しみです。
[良い点] 第9話   異なる世界(2)読みました。 THE ファンタジーといった感じになってきましたね! また楽しみにしています!
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