表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Meet You Again  作者: 藤乃 澄乃
第1章  青天の霹靂
25/88

第8話   シンクロ(3)

 梨里香と紫苑は、まだ知り合う前に、それぞれ同時刻に同じバス停で同じような体験をしたということが解った。

 そしてそれからというもの、梨里香はお気に入りの『Meet You Again』というファンタジー小説を読んでいると、雷が発生し、不思議な世界へと意識が行く。

 紫苑も、お気に入りの『Meet You Again』という音楽を聴いているときに、雷とともに不思議な世界への扉が開かれる、という。


 そしてそのふたりがこの大きな岩の上で、偶然にも同じ『Meet You Again』というタイトルのお気に入りを取り出したことで、同じ空間にふたりが同時に行くことになったのだ。


 偶然なのだろうか。

 そこになにか意味はあるのだろうか。

 それを確かめるべく、梨里香と紫苑は、もう一度昨日と同じことをしてみようということで話がまとまった。



 ふたりは例の、大人が5~6名は座ってもまだ余るほど大きく平らな岩に座り、昨日と同じように、梨里香は小説を開き、紫苑は音楽を選び、それぞれに準備をする。


 梨里香と紫苑は互いに見つめ合い、大きく息を吸い込む。

 準備は整った。ふたりは頷き、いよいよ検証をはじめる。


 まず梨里香がいつものようにしおりをはさんでいたところまで、パラパラとページをめくる。

 梨里香の髪を揺らす心地良い風に、緊張の面持ちを滲ませていた梨里香の頬も緩む。


 梨里香が小説の続きに目をやったその時、ページはパラパラと反対にめくられるように一番最初に戻る。


 彼女はもう一度しおりをはさんでいたページをあけた。

 すると無風であったにもかかわらず、またさっきと同じようにページは反対に動き出す。


 梨里香は最初のページに目をやる。


 一方、紫苑はスマホをタップする。

 少し強張った表情の紫苑の頬を柔らかな風がなでる。


 いつものように梨里香の本の最初には、『第1章 晴天の霹靂へきれき』というサブタイトルが浮かび上がってきた。


 紫苑のスマホからも音楽が流れ出す。



 刹那。


 梨里香と紫苑のふたりを取り巻くように風が吹き荒れ、いつしか見えないカーテンに包まれているかのような状態に景色が変わってゆく。



 雷鳴は轟き、その轟音は心臓にまでズシンと響く。

 薄暗い景色の中、稲光は時折お互いの顔を照らしては消える。

 強い風は吹けども、身体に感じるのはわずかな空気の揺れで、それによって髪をかき乱されることもない。

 まるでふたりを避けるかのようにその風は吹き荒れる。


 確信を以てふたりは顔を見合わせた。


 梨里香は本を閉じ、紫苑はイヤホンを外す。



「やっぱり思った通りだな」


 紫苑は少し興奮気味に話す。


「ええ。間違いないわ」


 梨里香が大きく頷いた。


「で?」


「え?」


 紫苑の問いかけに、梨里香はきょとんとする。


「次はどうする?」


 疑問は確信に変わった。

 ということは、次の段階へとすすむべきである。

 そう考えた梨里香は答えた。


「そうね。この不思議な現象が起こる理由が知りたいわね」


「そうだな。それにはもっと長くあの場に留まる必要があるな」


「今はまだ一瞬しかあの場所を体験していないけど、もっと長い時間あそこにいるとどうなるのかしら」


「まだなにも解らない状態でそれをするとどうなるか。危険が待ち受けているかもしれないぞ」


「解ってる」


「よし。じゃあ、やってみるか」




* * *


 少し休憩して、ふたりはまた同じことを繰り返してみた。

 予定通り別世界の見えないカーテンがふたりを包む。


 ふたりは緊張の面持ちで見つめ合う。

 不安な気持ちもあり、梨里香は紫苑に右手を差し出した。


「怖くないけど、なにがあるか解らないから、手を繋いでいてあげる」


 ちょっぴり頬を染めながら強がりを言っている梨里香を紫苑は微笑ましく思う。


「しゃあないなぁ」


 そう言葉を発しながらも、満更でもない紫苑。

 ふたりは手を繋ぎ、その後の成り行きを見守った。




 しばらくして、一際ひときわ大きな雷音が轟きわたる。

 身体の中心に直接響くような音に驚き、梨里香と紫苑は繋いだ手に力を込め、思わず目をつぶる。



 轟音が収まり、紫苑はそっと目を開けた。

 梨里香は肩に力を入れたまま、まだぎゅっと目を閉じている。


「え?」


 紫苑の声に、梨里香も恐る恐る目を開けてみた。


 するとそこは……。



お読み下さりありがとうございました。


次話「第9話 異なる世界(1)」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点]  >「次はどうする?」 そして、異なる世界へ? 構成がお見事です。
[良い点] 第8話   シンクロ(3)読みました。 異世界に行く……!?の、か……!? (゜o゜ というようなところでの終わりですね。 いつも、次回への繋ぎが上手です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ